沖縄県・尖閣諸島で5月3日に起きた中国ヘリによる領空侵犯を巡り、政府が現場周辺の民間飛行への対応に苦慮している。この事案では、政府の自粛要請を振り切って一帯を遊覧飛行した日本の民間機に中国側が反応して、ヘリを飛ばし、結果として領空侵犯の口実に利用されたためだ。
「十分な対応能力を有さない民間機が当該空域を遊覧飛行すれば、国民(搭乗者)に危害が及ぶ可能性がある。これを防ぐ観点から当然の措置を取った」
岩屋外相は28日の衆院外務委員会でこう述べ、自粛要請に理解を求めた。日本領空を日本の民間機が飛ぶのは原則自由だと説明しつつ、不測の事態を防ぐ目的だったと強調した。こうした観点から、政府は、尖閣上空への不要な接近は望ましくないとの立場だ。
日本維新の会の和田有一朗衆院議員は同委で、自粛要請で係争地のイメージが広がれば、「尖閣諸島に領土問題は存在しない」との日本の立場が揺らぎかねないと指摘した。
対して室田幸靖・内閣審議官は、中国海警局の船が尖閣周辺で領海侵入を常態化させている現状に触れ、「主権の行使として国民の安全を守るのも我々の責務だ」と答弁した。自粛要請で「日本の主権が引っ込む(揺らぐ)ことは全くない」と訴えた。
今回の遊覧飛行は、機長の80歳代の日本人男性が「奮闘する海上保安庁の諸君にエールを送りたかった」として計画した。国土交通省や国家安全保障局、内閣官房事態室が対応を協議し、自粛要請を決めたが、聞き入れられなかった。
5月3日午後、男性の小型民間機が尖閣諸島に近づくと、領海侵入中の海警局の船からヘリが飛び立ち、領空侵犯を開始。ヘリは民間機が現場を離れるのを見届けるようにして約15分で船に戻った。中国側はその後、日本の民間機を「中国領空」から退去させるためにヘリを飛ばしたとの一方的な主張を展開した。尖閣周辺での領空侵犯は3回目だが、日本側への退去要求は初めてだった。
武藤茂樹・元航空自衛隊航空総隊司令官は「力による現状変更を徐々に進める中国の『サラミ戦術』は、海から空へと広がっていくだろう。領海侵入や領空侵犯を繰り返すことで、尖閣を中国が実効支配していると国際社会に印象づけるのが目的だ」と警鐘を鳴らす。
政府は今後、民間飛行の自粛要請継続や法規制の是非を検討していくとみられる。ただ、航空法に基づく飛行禁止区域は、航空機の計器故障のリスクがある在日米軍のレーダー配備先など、物理的な危険が明白な例外的な地域に限られており、強制力を伴う規制を設けるハードルは高い。政府関係者は「中国に不当な介入の口実を与えない方策を慎重に検討したい」と語る。