【分析】ロシア・ウクライナ和平協議目前の大規模ドローン攻撃、トランプ氏の信頼性は窮地に


【画像】ドローン攻撃で煙が立ち上る様子

ウクライナによるとみられるロシア各地の戦略拠点に対する大規模ドローン(無人機)攻撃を受け、両国が、絶対に受け入れられない「レッドライン」を変える可能性はさらに低くなっている。

ウクライナ国境から数千キロ離れたロシアの戦略航空機を標的とした今回の攻撃以前から、クレムリン(ロシア大統領府)は「特別軍事作戦」と呼ぶ作戦の終了と引き換えに、具体的に何を求めるのかを正式な合意覚書の形で示すことを拒んできた。

一方でロシア当局は、併合した全領土の主権やウクライナの非軍事化、即時制裁緩和のほか、クレムリンが「非ナチ化」と呼ぶ、ロシア語を話す人々の権利の保障などを含む強硬な条件について公にしている。

ウクライナをはじめとする国々におけるロシア国境に向けた北大西洋条約機構(NATO)のさらなる拡大に対する懸念もクレムリンの一貫した不満の種となっている。数千億ドルに上るロシアの海外凍結資産の行方もだ。

ロシアと西側諸国のメディアでは、交渉の可能性のある分野について臆測が飛び交う。イスタンブールでの会談には、柔軟な姿勢を示す兆候がみられるか注目が集まる。

しかし、ウクライナにとって目覚ましいと思われる今回の成功を受け、クレムリンの妥協案は現時点で検討されていない可能性がある。

ウクライナは、ロシアの戦略爆撃機など重要な航空資産を破壊したとみられる状況で、2回目の直接協議に臨む。

ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、無条件での停戦や、ロシアに連れ去られたウクライナの子どもたちの帰還など、立場の一部を発表した。

ロシアは制圧すらしていないにもかかわらず領有権を主張している領土からの撤退をウクライナ軍に要求している。これはウクライナにとって依然として受け入れ難い。前線の奥深くまで攻撃できることを示した今となってはなおさらだ。

ウクライナの最新の攻撃が行われる以前から、イスタンブールでの和平協議の準備が進む中でもロシアはウクライナへの攻撃を強化している。これは夏に仕掛ける新たな攻勢の初期段階とみられる。

ロシアは5月31日夜、開戦以降最大規模となる攻撃を472機のドローンを投入して実行した。1日にはウクライナ軍の訓練場で、ロシアのミサイル攻撃により少なくとも12人が死亡、60人以上が負傷した。

こうした状況の中、かつてはウクライナ戦争を短期間で終結させることができると豪語していたトランプ米大統領はいら立ちを募らせている。同氏は自らの外交政策の土台が決定的に揺らぐ現状をただ傍観するばかりだ。

大統領執務室で激しく非難し、ゼレンスキー氏へ与えた圧力も、ロシアのプーチン大統領への最近の批判も、両者を和平合意に近づけたようには見えない。

厳しい制裁を新たに科したり、戦闘継続のコストを大幅に増加させる形で米国の軍事援助を調整したりするなど、トランプ氏には依然として強力な選択肢が手元にある。制裁措置は上院の圧倒的多数が支持している。こうした措置は戦争の行方を決定づけるものではないかもしれないが、米国の関与を示すメッセージとなるだろう。

しかしトランプ氏の頭にあるのは、この混乱そのものから単に身を引くことだ。これはバイデン前大統領の戦いであり、プーチン氏とゼレンスキー氏の戦いだとトランプ氏は主張する。

身を引くことが米国の政策において何を意味するのかは不明だ。しかし撤退はもはや選択肢ではないかもしれない。少なくとも、無傷で済むことはないだろう。

ウクライナ紛争を終結させることへのトランプ氏自身の強いこだわりと、ウクライナ・ロシア両指導者への個人的な介入は、トランプ氏と米国が今や紛争の行方と切っても切り離せない関係にあることを意味する。

だからこそ、戦場とイスタンブールの交渉の場での出来事がこれほどまでに注視されているのだ。

トランプ氏は常々この戦争から手を引こうと試みているにもかかわらず、ウクライナ戦争はまさにトランプ氏の戦争となり、米国の信頼性は今や危機にひんしている。

本稿はCNNのマシュー・チャンス記者による分析記事です。



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