〝不法行為〟を黙認したかのようなメール
自公政権が少数与党に陥った今国会で、争点の1つになると思われた選択的夫婦別姓。5月末に野党から法案が提出されたことで、衆院法務委員会でようやく審議入りすることになった。
【証拠画像】「生活保護の件、了解しました」篠田議員がAさんに送ったメール
所属議員の賛否が割れる自民党を揺さぶるためか、2月の予算員会(第三分科会)の段階で早くも「ジャブ」を放っていたのが立憲民主党である。昨秋の総選挙で初当選した篠田奈保子衆院議員(53、比例北海道)が、実体験に基づいた次のような質疑を行っている。
「私はいま、通称使用ということで、戸籍名は中川なんですけれども、篠田奈保子として国会議員をしております。ですので、私の子どもは4人いますけれども、全員が中川姓、私は篠田で仕事をさせていただいております。
今回の選択的夫婦別姓制度の議論のなかで、両親や親子の氏が異なると、子どもが『かわいそう』であるとか、そういった反対の議論があるんですけれども(中略)親子の姓が異なる家族というのは、すでにいっぱいいるんですよね。ですので、その方々に対して『かわいそう』ということは、大変、私は的外れだと思っております」
北海道東部の公立高校を卒業後、2年間の浪人生活を経て北海道大学法学部に進学した篠田氏。2回目の挑戦で司法試験に合格した弁護士でもあり、約20年間の活動をとおして、ひとり親世帯や生活困窮者の支援に力を入れてきた。しかし、そうした活動のなかで、弁護士としてはもちろん、国会議員としても、その資質に疑問を抱かざるを得ないある証拠を筆者は入手した。
筆者の手元にあるのは、Aさんという女性とその夫が’12年〜’16年にかけて争った離婚訴訟の記録である。弁護士時代の篠田氏は、この裁判で妻・Aさん(原告・申立人)の代理人となり、最終的に最高裁から離婚決定を得たほか、子ども2人の親権が妻にあることなどを認めさせている。
また、これらに加えて筆者の手元には、夫側が、弁護士としての篠田氏に対して損害賠償などを求めた訴訟の記録もある。
「これらの記録には、Aさんが裁判に臨むにあたり、篠田氏と打ち合わせをした際のメールの記録が含まれていました。そのやり取りのなかに、篠田氏が、Aさんの〝不法行為〟を黙認したかのようなメールもありました」(法曹関係者)
◆「どう説明するかは先生と相談出来ればと思います」
そのメールはまず、’13年9月13日午前11時15分に、中川潤一弁護士からAさんに送られている。ここで登場する中川弁護士は篠田氏の夫である。2人は北海道釧路市内で法律事務所を開業し、Aさんの代理人も2人で務めていた。篠田氏のメールアドレスはCC部分に記載され、同じ内容を共有できるようになっていた。
〈弁護士の中川です。(中略)
篠田が出張中なので,私が代わってメールします。
昨日の裁判では,お互いの書面,証拠が提出されました。(中略)
財産分与に関して,双方名義の口座を全部出そうということになりました。(後略)〉(原文ママ)
財産分与のあり方は、離婚にあたって協議する基本的な条件の1つである。互いにこれまでにつくった金融機関の口座をすべて明らかにし、まずは全財産を把握しようということだろう。
そして、Aさんは同じ日の午後2時8分、中川弁護士だけに次のように返信した。
〈(前略)ゆうちょ銀行は夫には10万(円)位しかないと言っていましたが、66万位ありました。生活保護を受けるにあたり、40万位は親に預けました。それをどう説明するかは先生と相談出来ればと思いますが、通帳は全て夫のとこなので、まずは送ってもらわないといけないと思います〉(丸かっこ内は引用者)
このメールから考えられるのは、貯金額を故意に減らすことで、Aさんは、生活保護を不正に受給していたのではないかという疑惑である。
当時、Aさんが暮らしていた北海道釧路町で、生活保護を担当する地域課の職員は、筆者の取材に対して次のように話した。
「生活保護の受給希望者の経済状況に関しては、基本的に収入がなく、預貯金や現金の手持ちもなく、家族からの援助も期待できない人が対象になります。各家庭によって異なりますが、母1人、子ども2人の場合、一般的に、最低限の生活を維持するためにかかる費用は約18万円程度。預貯金は10万円程度であれば、生活保護の対象になり得る」
裁判資料のなかには通帳の写しもあり、Aさんがメールで語ったような出金の動きも確認できる。まさに、生活保護の受給条件に合う程度まで貯金残高を減らしていたようなのだ。
ところが、財産分与の協議にあたり、過去の通帳を夫側に見せる必要が生じた。そこには入出金した日付や金額が書かれていて、離婚や子どもの親権などを巡って対立している夫に、不正を把握される事態に直面したのである。
実際に、同日の午後4時22分に、Aさんが中川弁護士に送ったメールからは、彼女が動揺している様子がうかがえる。
〈ゆうちょ銀行の通帳は使えないようにしてあるのですが、それをしたのが遅かったので(夫に口座の入出金履歴を)知られている可能性はあります〉(丸かっこ内は引用者)
これらのメールは、生活保護の不正受給という〝罪の告白〟ではないのか。そして、依頼人からのこのような告白を受けた篠田氏はどのように対応したのか。
本来ならば、不正を知った段階でAさんをただし、受給もやめさせるべきである。ところが実際には、篠田氏はそうした対応をしていなかったように考えられるのだ。
◆「生活保護の件、了解しました」
1ヵ月あまり経った10月28日午前10時17分、Aさんから篠田氏に次のようなメールが送られている。
〈おはようございます。(中略)12月で両親の方の住宅ローンが終わるということもあり、12月いっぱいで生活保護のほうを終わりにすることになりました〉
このメールに対して、篠田氏は次のように返信している。
〈篠田です。(中略)生活保護の件,了解しました〉
メールは、Aさんから篠田氏に対して、生活保護をとりやめることを報告する内容である。しかし見方を変えれば、篠田氏は、Aさんが一定期間は生活保護を受け取ることを了解している。前出のメールの内容と合わせると、篠田氏は、少なくとも’13年9月から12月までの約4ヵ月間、Aさんによる生活保護の不正受給を黙認していた可能性がある。
これら一連のメールのやり取りに加え、Aさんによる生活保護の不正受給を裏づける別の証拠もある。彼女の実家の不動産登記簿を見ると、メールでAさんが触れていた「両親の住宅ローン」が確かにあったことがわかるのだ。
登記簿によると、Aさんの実家は’07(平成19)年1月30日付で抵当権が設定され、父親と思われる人物の名義で、金融機関から850万円を借りている。そして、その返済を終えたのが’14(平成26)年1月6日。こうした内容はAさんのメール内容とほぼ一致していることから、Aさんが不正に受け取った生活保護費が、実家のローン返済に充てられていた可能性もまた高いといえるのだ。
そして、篠田氏は、このことも知っていておかしくはない。
10年以上前のことではあるが、篠田氏が、依頼人によるこうした不法行為を把握していたとすれば、弁護士としてはもちろん、国会議員としても職務を続けることはふさわしくないのではないか。
篠田事務所に見解を求めると、次のように回答した。
〈弁護士の守秘義務がありますので、特定の事案に対して回答は一切いたしません〉
弁護士の職業規範に従うとともに、篠田氏には、国会議員としての説明責任も求められているのだが、その点に関する言及はなかった。
宮下直之(ノンフィクションライター)
naoyukimiyashita@pm.me
取材・文:宮下直之(ノンフィクションライター)
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