自民党の萩生田光一衆院議員の事務所公式Xが、たび重なる誹謗中傷を受けたとして、名誉毀損罪による刑事告訴をおこなったと投稿しています。
告訴の相手方とされているのが、萩生田氏と同じ東京24区から出馬予定の深田萌絵氏です。
これを受けて、SNS上では「(名誉毀損罪ではなく)内乱罪で告訴されるのではないか」という噂まで広まっています。
一方、萩生田氏の事務所は「内乱罪ではございません」と否定しています。
ここで出てくる「内乱罪」とは、あまり耳慣れないものですが、いったいどのような罪なのでしょうか。簡単に解説します。
●殺人よりも重い犯罪
内乱罪とは、簡単にいえば、国家を破壊するような行為に対する犯罪です。
内乱にどの程度関わったかによって刑罰が変わります。首謀者は死刑か無期拘禁刑しかないという非常に重い犯罪です(刑法77条1項1号)。
殺人罪(同法199条、死刑、無期拘禁刑のほか、5年以上の有期拘禁刑の可能性がある)よりも重い犯罪とされています。
内乱罪は、「国の統治機構を破壊」「国権を排除して権力を行使」など、憲法の定める統治の基本秩序の破壊を目的として暴動をした場合に成立します。
この「目的」とは、議会制民主主義の下での議院内閣制の破壊、国会制度や司法制度の否認や変革を目的とすることを意味し、単に個々の内閣の打倒や更迭は含まれないとされています。(大判昭和10年10月24日など)
●政治家をいくら批判しても内乱罪にならない
上で説明したように、個々の内閣や個人の政治家をいくら批判しても、それが名誉毀損などにあたる可能性はありますが、それだけでは内乱罪にはなりえません。
現時点(6月2日)で判明している事実を前提にするのであれば、萩生田氏が内乱罪で刑事告訴する可能性も、深田氏が内乱罪で処罰される可能性もないといえます。
●「誹謗中傷」ならば名誉毀損が一般的
「誹謗中傷があった」と主張して、相手方の刑事処罰を求めるのであれば、名誉毀損罪による告訴をするのが、一般的です。
しかし、特に「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実」を摘示した場合、名誉毀損罪は成立しにくい(摘示した事実が真実であることの証明があれば罰しないとされている)ことに注意が必要です。
(内乱)
第七十七条 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。 一 首謀者は、死刑又は無期拘禁刑に処する。 二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の拘禁刑に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の拘禁刑に処する。 三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の拘禁刑に処する。
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。 2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。 (公共の利害に関する場合の特例) 第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。 2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。 3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
弁護士ドットコムニュース編集部