東京新聞記者の望月衣塑子氏が、自身のYouTube番組「オッカ君チャンネル」を本格的に始動させ、注目を集めている。ジャーナリストとして永田町、霞が関を取材し、新聞コラムやYouTubeなど多方面で活動する望月氏は、政治、企業、メディアが一体となって軍拡を後押しする構造に批判的な視点を持ち、権力批判のジャーナリズムを展開している。
安倍政権下の攻防と注目の経緯
望月氏が広く知られるようになったのは、安倍晋三政権下での官房長官記者会見だ。当時社会部記者だった望月氏は、政治部主体の首相官邸の記者会見に頻繁に出席。森友・加計学園問題や沖縄基地問題など、政府にとって厳しい質問を菅義偉官房長官(当時)に繰り返し投げかけた。その粘り強い質問スタイルは、菅氏から「あなたに対して答える必要がない」と言われるほどの異例の状況を生んだ。
内閣広報官名で東京新聞編集局長宛てに質問内容に慎重さを求める文書が9回届き、記者会見中に報道室長から「簡潔に願います」と質問を遮られるなど、官邸からの露骨な圧力に直面した。また、官邸記者クラブ内でも、懇談や個別取材で情報を得るという従来の政治部文化との衝突や、「質問時間がなくなる」といった不満の声も聞かれた。会見場の掲示板に「官房長官記者会見の意義が損なわれることを懸念する」という、望月氏の質問を牽制するニュアンスの報道室長名の紙が張り出されたこともあった。
権力とメディアの異例な状況
この一連の出来事は、安倍一強体制下における権力とメディアの異例の攻防として注目された。特定の記者に対し、官邸がこれほどまでに直接的、間接的な圧力をかけること自体がニュースであり、当時のメディアが権力に忖度し、分断されていた状況を象徴していた。しかし、こうした圧力にも屈せず質問を続ける望月氏の姿勢は、メディア関係者の一部に応援されるだけでなく、多くの国民から「聞くべきことをきちんと聞いてくれた」と共感を得た。
東京新聞記者の望月衣塑子氏:権力批判のジャーナリズムを展開
望月氏がこの経験を綴った著書『新聞記者』は、同名の社会派サスペンスフィクション映画の原案となり、2020年の第43回日本アカデミー賞で3部門を受賞するなど、その活動は社会的な影響力を持つに至った。
新しいプラットフォームでの発信とジャーナリズムの未来
新聞記者でありながらSNSやYouTubeを活用し、リベラルな言論を展開する姿勢は、変化するメディア環境におけるジャーナリズムのあり方を問い直している。軍事を後押しする政治、メディア、学術界といった構造に対する批判的な視点を維持しつつ、多様なプラットフォームでの発信を通じて、現代ジャーナリズムの使命を果たそうとする望月氏の活動は、今後も注目されるだろう。特に、YouTubeという開かれた場でどのような議論を展開していくのかが期待される。
まとめ
望月衣塑子記者は、安倍政権下での官房長官会見における粘り強い質問を通じて、権力からの圧力に屈しないジャーナリストとして注目された。その活動は書籍化・映画化され、社会的な影響力を持った。今回、自身のYouTubeチャンネル「オッカ君チャンネル」を本格始動させることで、変化するメディア環境の中で、権力批判やジャーナリズムの使命について新たな形で発信していくことが期待される。これは、政治、メディア、学術界が絡む現代社会の複雑な構造に光を当て、読者や視聴者に考えるきっかけを提供する試みと言えるだろう。