NHKドラマ「しあわせは食べて寝て待て」が示す現代の幸福論:記録的視聴数の秘密

NHK総合で放送中のドラマ「しあわせは食べて寝て待て」が、異例の注目を集めています。桜井ユキさん演じる主人公、麦巻さとこは、38歳、家賃5万円の団地で暮らす独身女性。水凪トリ氏の同名漫画を原作とし、膠原病を患いながらも薬膳や近隣住民との温かい交流を通して日々を丁寧に生きていく姿を描いた本作は、NHKプラスでの同時・見逃し配信において、大河ドラマや連続テレビ小説を除く全ドラマ中、過去最高の視聴数を記録したのです。

ドラマ「しあわせは食べて寝て待て」より、主人公の麦巻さとこ(桜井ユキ)と大家の美山鈴(加賀まりこ)、同居人の羽白司(宮沢氷魚)が食卓を囲む温かい一場面。ドラマ「しあわせは食べて寝て待て」より、主人公の麦巻さとこ(桜井ユキ)と大家の美山鈴(加賀まりこ)、同居人の羽白司(宮沢氷魚)が食卓を囲む温かい一場面。

大恋愛や謎解きとは無縁の「地味ドラマ」がなぜ?

現代の多くの人気ドラマとは一線を画し、「しあわせは食べて寝て待て」は、壮大な恋愛や複雑な謎解きとは無縁です。主人公の余命が宣告されるようなドラマチックな展開もなく、SNSで考察合戦が繰り広げられるような怒涛のストーリーもありません。一見すると「地味」と評される本作が、これほどまでに多くの視聴者を惹きつけているのは、一体なぜでしょうか。

「ちょうどいいお湯加減」の心地よさ

その最大の要因は、視聴者が「ちょうどいいお湯加減」と感じるような、心地よい温かさにあります。さとこが団地の大家である美山鈴(加賀まりこさん)や、鈴の同居人・羽白司(宮沢氷魚さん)と共に食卓を囲むシーンは、本作の象徴。誰かが誰かのために作った料理を美味しそうに食べ、他愛のない会話を交わすだけの何気ない時間ですが、そこには得も言われぬ安らぎがあります。桜井ユキさん、加賀まりこさん、宮沢氷魚さんらの自然体の演技が、この心地よさを一層引き立てます。また、主人公の収入に見合ったリアルな団地の部屋を再現した緻密なセットも、非現実的な違和感を与えず、温かい生活感を演出。視聴者は安心して物語に没入できます。

リアルな「生きづらさ」を隠さない

しかし、「しあわせは食べて寝て待て」は、単に穏やかな日常を描くだけではありません。主人公のさとこは膠原病を患っており、定期的に希死念慮に苛まれたり、体調不良で何もできず家でぐったりしたりする場面が描かれます。週4日のパート勤務で物価高に苦しみ、経済的な余裕もない状況も隠されません。第2話でさとこが「何のために生きてるんだろう」と本音を漏らしたように、本作は現代人が抱えるリアルな「生きづらさ」や困難を避けることなく描いています。

困難の中でも見出す「しあわせ」への共感

緩やかな日常と、リアルな困難。この二つの対比があるからこそ、さとこが日々の小さな出来事の中に幸福感を見出し、懸命に生きる姿がより強く印象に残ります。多種多様な困難を描きつつ、それでも「しあわせ」を探し求める主人公の姿は、多くの視聴者の共感を呼び、「自分も頑張ろう」という勇気や元気を与えているのかもしれません。

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「しあわせは食べて寝て待て」は、華やかなエンターテイメントとは異なるアプローチで、現代社会における「しあわせ」のあり方を静かに問いかけています。リアルな生活の厳しさと、その中に宿る温かさや小さな喜びを丁寧に描き出すことで、多くの人々の心に響き、支持を広げていると言えるでしょう。

参考文献:
エンタメNEXT / Yahoo!ニュース (記事「『しあわせは食べて寝て待て』異例の大ヒット NHKドラマが示す「ちょうどいい」魅力」)