選択的夫婦別姓の導入に向けた法案が、28年ぶりに衆議院法務委員会で審議入りした。しかし、「伝統的な家族観」を重んじる慎重派の根強い反対に直面しており、その実現は依然として不透明な状況にある。こうした中、日本の家族法などを専門に研究するアメリカの大学教授は、夫婦別姓を法的に認めることが、日本社会がより男女平等になるための大きな転換点となり得ると指摘している。
日本人女性は、数百年にわたり「嫁入り」した家のために自己を犠牲にするという儒教的な通念に縛られてきた。この通念は、結婚後の「氏」(姓)にも影響を及ぼしている。性差別を助長するダブルスタンダードと男性中心的な社会構造のため、大多数の日本人女性が結婚を機に、慣れ親しんだ自身の姓を放棄しているのが現状である。
1947年に改正された日本の民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定している。この条文は法律上は夫婦のどちらの姓を選択しても良いとしているが、実際には慣習として夫の姓を選択することが圧倒的に多い。日本の夫婦の95%が夫の姓で入籍しているという統計がある。
それでも、状況に変化の兆しが見られないわけではない。時事通信社が2025年3月の国際女性デーに合わせて実施した国会議員アンケートでは、選択的夫婦別姓に賛成する議員が44%に達し、以前よりも賛成派が増加傾向にあることが示された。また、石破茂首相も、かつて選択的夫婦別姓の導入に対して前向きな姿勢を示したことがある。これにより、結婚後も自身の姓を使い続けたいと願う日本の人々からの期待が再び高まっている。ジェンダー、家族制度に関する日本の法律を長年研究してきた立場から言えば、こうした変化は多くの日本国民、特に女性に歓迎されるべきものだ。15年にわたり日本人女性を対象に聞き取り調査を行ってきたが、多くの人が、生まれ持った姓を結婚後も名乗り続けたいと強く希望していると答えている。
姓の変更が日本人女性のキャリアに与える影響
共同通信社が2025年1月に実施した全国世論調査では、回答者の約6割が選択的夫婦別姓の導入に賛成の意向を示した。国民の多数が賛成しているにもかかわらず、日本政府は男女の平等を保障した憲法と矛盾するとも指摘される民法を、未だに改正していない。この改正を阻む主な要因は、戦後一貫して政権与党であり続けている保守政党、自由民主党の存在である。
法改正によって夫婦別姓を認めれば、「伝統的な家族」のあり方が壊れると考える自民党の議員たちは、過去に提出された法改正案を幾度となく見送らせてきた。2015年には、最高裁判所が「夫婦同姓を義務付ける民法規定は合憲である」との判断を示したが、同時に夫婦別姓の是非については国会での議論に委ねるという立場を取った。それ以来、自民党は法制化に向けた国会審議を事実上阻止してきた経緯がある。しかし、議員の大半を男性が占める日本の保守的な政治状況の中でも、夫婦別姓を認めるべきだという野党からの圧力は年々高まっており、政府もこうした声に全く向き合わないわけにはいかなくなっている。
日本において姓名は、個人のアイデンティティを形成する上で非常に重要な要素である。男性であれ女性であれ、自身の姓名からきょうだいや親、祖父母、さらには先祖がかつてどこに暮らし、どのような仕事をしていたかを連想することができる。筆者の聞き取り調査に応じたある既婚女性は、「銀行の窓口で夫の姓で呼ばれるたび、まるで他人のことのように感じてしまいます。それが自分の名前だという感覚が全くしないのです」と語った。
しかし、結婚による姓名の変更がもたらす影響は、個人のアイデンティティに留まらず、職場にも及ぶ。日本では通常、職場で同僚や上司をお互いのファーストネームではなく、姓で呼び合うのが一般的である。厚生労働省が2022年に実施した調査によれば、日本の平均結婚年齢は女性が29.7歳、男性が31歳となっている。このことから、多くの日本人女性は結婚するまでに、旧姓で約10年近いキャリアを既に築いていることがわかる。
選択的夫婦別姓の導入議論。未来を見据えるカップルのイメージ。
また別の聞き取り調査協力者は、結婚後も夫と同様に、自身の旧姓で何のためらいもなく仕事を続けたいと話した。彼女は、顧客や同僚、直属の上司に姓名が変わったことを報告すると、業務上必ずしも必要のないプライベートな事柄にまで関心を持たれることが嫌だと感じていた。さらに、筆者が聞き取り調査を行った別の女性の中には、結婚を報告した後に上司や同僚からの態度が変わったと感じた人もいた。彼女は、独身時代と変わらず熱心に仕事に取り組んだとしても、結婚したという事実によって正当な評価が得られないのではないかと懸念していた。こうした個々の事例から、日本では結婚が女性のキャリアに少なからず影響を与え、時には傷つけるケースが多々あることが明らかになる。それを避けるために、自身の姓が変わったことを職場の同僚や顧客に伝えないことを選ぶ女性も存在する。
結論として、選択的夫婦別姓の導入は、単なる名前の変更に関する問題ではなく、日本のジェンダー平等、女性のアイデンティティの尊重、そしてキャリア継続における重要な課題である。国民の意識は変化しつつあるものの、保守層の根強い抵抗が法改正を阻んでいる状況だ。米国の研究者が指摘するように、夫婦別姓を認めることは、長年の慣習に縛られてきた日本人女性が、結婚後も個人として尊重され、キャリアを追求できる社会へと日本が転換するための、決定的な一歩となるだろう。この議論の行方は、今後の日本社会のあり方を左右する重要な鍵を握っている。
参考文献:
- Original Article: https://news.yahoo.co.jp/articles/cedca2e55e423033872bcf9dc30f6ecfbb748a3b
- Image Source Context: Photo: Satoshi-K / Getty Images (via Courrier Japon)