米国トランプ政権の動向は世界に影響を与え続けており、経済、国際秩序、価値観など様々な側面で各国は対応に追われています。トランプ大統領が次々と発した施策に対し、多くの人々が困惑や反発を示す中で、彼を最大のライバルと見なす習近平国家主席への見方を変える人もいるようです。では、トランプ氏がもし「悪人」だとすれば、その「敵」である習近平氏は「善人」であり、協力し支援すべき指導者なのでしょうか？このような複雑な国際情勢の中、[ハーバード大学]の卒業式で行われた[中国人]留学生、蒋雨融氏による[スピーチ]が中国国内で大きな注目を集めました。これは5月29日の出来事です。
スピーチの内容と国内での拡散
卒業生代表の一人として演説を行った蒋雨融氏は、中国の民族衣装を纏い、自身のSNSアカウントに演説の動画を投稿しました。動画には「ハーバード大学史上初めて、中国人女性卒業生代表が演説を行い、聴衆が涙を流した」という自己PRとも取れるタイトルが付けられており、この動画は中国のソーシャルメディア上で瞬く間に拡散されました。その後、中国の多くのメディアがこの出来事を報じました。例えば、中国の大手ネットメディア「澎湃新聞」は、「＃世界は恐怖と争いに飲み込まれているが、私たちは優しさを保たなければならない」というテーマで彼女の演説を紹介しました。
ハーバード大学卒業式での中国人学生スピーチ、蒋雨融氏の姿
「人類運命共同体」への言及とその意味
演説の中で蒋氏は繰り返し「SHARED HUMANITY」という言葉を用いました。これは中国語に訳すと「人類運命共同体」という概念になります。この「人類運命共同体」は、近年、習近平氏が国際社会に向けて強く提唱している中国の重要な概念の一つです。ハーバード大学という世界的な権威を持つ学術の場で、中国人学生がこの概念につながる言葉を述べたという点が、中国国内で特にクローズアップされました。中国のソーシャルメディア上には、「人類運命共同体の声がハーバード大学のキャンパス中に響き渡っている」といった、国家的な思想やプロパガンダと結びつけるような誇らしげなコメントが瞬く間に溢れました。
グローバルな発言と国家メッセージの交錯
この出来事は、グローバルな舞台で行われた個人の発言が、いかに国家的なメッセージや政治的概念と結びつけられ、解釈されるかを示す興味深い一例と言えます。特に米中関係が複雑化し、国際社会における影響力を巡る競争が続く中で、中国側が自国の提唱する「人類運命共同体」という概念を国際的な権威ある場（ハーバード大学）でのスピーチを通じて遠回しに、あるいは意図的に広めようとする側面、そしてそれが中国国内でどのように受け止められ、ナショナリズムの高揚に利用されるのか、という側面が浮き彫りになりました。
ハーバード大学卒業式での中国人留学生によるスピーチは、単なる卒業の挨拶という枠を超え、「人類運命共同体」という言葉を通じて中国の外交・思想的なメッセージと結びつけられ、中国国内外で論議を呼びました。これは、世界情勢が変化し、米中間の対立構造が指摘される中で、中国がどのように自国の価値観や概念を国際社会に発信し、またそれを国内向けのプロパガンダとして活用しようとしているのかを理解する上で示唆に富む事例と言えるでしょう。
