札幌市街地に出没したヒグマが市民を襲撃:2021年の「異変」を振り返る

近年、全国各地でクマによる人身被害が相次ぎ、その死者数は過去最多を更新する深刻な事態となっています。こうした状況下で、クマの行動パターンに「異変の先触れ」とも言える衝撃的な事件が、2021年に北海道札幌市で発生しました。日本有数の大都市である札幌の中心部、駅からわずか2キロの市街地にヒグマが出没し、人間を襲撃したのです。この事件は、都市と野生動物との共存における新たな課題を浮き彫りにしました。

札幌の市街地に潜むヒグマ、都市部での出没事件の異変札幌の市街地に潜むヒグマ、都市部での出没事件の異変

早朝の緊急事態:都市部を震撼させたヒグマの影

2021年6月18日、北国の早朝はすでに明るさを増していました。札幌の日の出は午前3時55分。この初夏の陽光が、人間社会に突如現れた“異形”を照らし出したのです。午前5時38分、朝刊を読み終えたばかりの斎藤羊一郎氏(74)の携帯電話が鳴り響きました。斎藤氏は「一般社団法人 北海道猟友会」札幌支部で支部長を務め、長年ヒグマ防除隊の隊長として活動してきたベテランハンターです。電話の相手は札幌市環境局のヒグマ対策担当職員。斎藤氏は、いつものクマ出没情報だろうと想像しながら電話に出たものの、耳にしたのは自身のハンターとしての常識を覆す内容でした。

「隊長、北十八(条)の東六(丁目)に出た!」

斎藤氏は思わず「はぁ!? 何言ってるの?」と間の抜けた声を出しました。ハンター歴45年の斎藤氏の頭には、札幌市内でヒグマが出没し得る場所のすべてがインプットされています。しかし、「北十八(条)の東六(丁目)」といえば、1日約20万人が利用する札幌駅から直線距離でわずか2キロほどの距離にあり、ヒグマが出没することは到底考えられない場所だったからです。職員は「『何言ってる』って、クマが出たという情報があったんです! とりあえず私ども、向かいますんで」とたたみかけ、斎藤氏は「わかった。オレも行きますよ」と応じました。

ハンターの常識を覆した「人身被害」の報

事態の深刻さを認識しつつも、斎藤氏は防除隊の副隊長である藤井和市氏に連絡を取り、現場へと急ぎ向かう準備を始めました。大急ぎでハンターシューズの紐を結び終えようとしたその時、再び携帯電話が鳴り響きます。「どうした?」と問いかける斎藤氏に、飛び込んできたのは想像を絶する一言でした。

「ヒトが襲われた!」

斎藤氏は当時の状況を振り返り、「正直にいうと……、この瞬間までは、まあ十中八九、大きな犬かなんか、見間違いだろうな、と思っていました。でもこの一言ですべてが吹っ飛んだ」と語っています。まさにこの瞬間から、人間の生活圏のど真ん中に突如現れたヒグマが、4人に重軽傷を負わせた「札幌市東区ヒグマ襲撃事件」が幕を開けたのでした。

2021年札幌市東区ヒグマ襲撃事件の現場、市民が負傷した衝撃の瞬間2021年札幌市東区ヒグマ襲撃事件の現場、市民が負傷した衝撃の瞬間

2021年の「札幌市東区ヒグマ襲撃事件」は、単なる野生動物の出没事故にとどまらず、都市と自然の境界が曖昧になる現代社会における新たな警鐘となりました。人間の生活圏の奥深くまで侵入し、直接的な被害をもたらしたこのヒグマ襲撃は、今後の野生動物管理や都市計画、そして住民の安全対策において、重要な教訓を与えています。この事件は、私たち人間が自然とどのように向き合い、変化する環境に適応していくべきかを深く考えさせる契機となったのです。