盛岡市、市街地クマ対策に「麻酔吹き矢」導入へ—専門性と市民の安全確保

近年、岩手県盛岡市では市街地におけるクマの出没が頻発し、市民の間に不安が広がっています。こうした状況を受け、盛岡市は従来の対策に加え、麻酔薬を塗布した吹き矢を用いてクマを捕獲する新たな人材育成方針を打ち出しました。内舘茂市長は11月4日の定例記者会見で、「新たな手段も視野に入れていく」と表明し、この独自のアプローチが注目されています。

新たなクマ捕獲法への賛否—「時代錯誤」か「現実的選択」か

盛岡市が麻酔吹き矢の導入を発表したことで、インターネット上では「何時代だよ」「銃で死なないのに?吹き矢刺さるのか」といった驚きや懸念の声が多数寄せられました。「吹き矢が届く距離まで近づくのは危険ではないか」「骨を貫通するほどの威力があるのか」など、その実効性や安全性に対する疑問が噴出しています。

しかし、同市環境企画課の担当者は、『週刊女性PRIME』の取材に対し、「市街地など人が多い場所では銃の使用が安全面で極めて難しく、また罠にかかるクマも少ないのが現状です。そのため、“麻酔吹き矢”という選択肢を真剣に検討するに至りました」と、その背景を説明しています。実際、10月28日には盛岡市内の銀行地下駐車場に出没したクマが、麻酔吹き矢によって捕獲・駆除された成功事例も報告されており、一定の効果があることを示しています。これは、従来の捕獲方法が難しい状況下での新たな解決策として期待されています。

市街地で目撃されたクマのイメージ。盛岡市はクマ対策として麻酔吹き矢の導入を計画している。市街地で目撃されたクマのイメージ。盛岡市はクマ対策として麻酔吹き矢の導入を計画している。

「麻酔吹き矢」運用の専門性と課題

麻酔吹き矢を用いたクマの捕獲は、高度な専門知識と技術を要します。盛岡市は、岩手県内で現在1名しかいない獣医師資格を持つ委託者に頼るだけでなく、市職員の中から専門人材を育成する方針です。しかし、麻酔薬の調合は獣医師や医師など限られた職種のみに許されており、市職員の場合、保健衛生分野の業務を担う獣医師に限定される見込みです。

担当者によると、吹き矢は「骨の硬い部位を避け、お尻などやわらかい部分を正確に狙う必要があります。これは動物に関する専門的知識がないと非常に難しい」と指摘します。さらに、吹き矢の扱いに慣れるための射撃訓練も必須となります。矢の飛距離は数メートルと限られているため、動いているクマを直接狙うのではなく、狭い場所に追い込んだ状況でのみ使用が想定されています。また、吹き矢を打たれたクマが痛みで興奮し、歩き回る可能性も考慮されており、「今後の導入には、捕獲に当たるスタッフの安全確保を最優先に考えなければなりません」と、課題を強調しました。人材確保、麻酔薬の適切な取り扱いに関する研修、そして吹き矢射撃訓練など、多岐にわたる対策が急がれています。

今後の展望と他自治体への影響

盛岡市がこの麻酔吹き矢によるクマ対策を本格的に導入するにあたり、市民の不安解消が喫緊の課題となっています。担当者は、「市民の不安の声があがっているなかで、前向きな対策としたい」と語り、安全かつ効果的な運用を目指す姿勢を示しています。

このユニークで専門性の高い手法が盛岡市でどのように実践され、どのような成果をもたらすのかは、全国的にクマの出没が増加している他の自治体にとっても大きな関心事となるでしょう。盛岡市の取り組みは、今後の都市部における野生動物対策の新たなモデルケースとなる可能性を秘めており、その動向が注目されます。


参考文献