地震専門家が語る「わからないこと」:群発地震と南海トラフ、地学の最前線

東日本大震災以降、日本列島は地震や火山噴火が頻繁に発生する「大地変動の時代」に突入しました。このような時代において、地震や津波、噴火といった自然災害から身を守り生き延びるためには、「地学」に関する正確な知識が不可欠です。京都大学名誉教授であり、長年地球科学の研究に携わってきた専門家である鎌田浩毅氏の著書『大人のための地学の教室』では、授業形式の語り口で地学のエッセンスと生き延びるための知恵が分かりやすく解説されています。東京大学教授の西成活裕氏も「迫りくる巨大地震から身を守るには?これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛しており、その内容は多くの読者にとって価値あるものとなっています。本記事では、同書の一部を抜粋・編集し、地震に関する専門家の見解を紹介します。

地震や自然災害への注意を促すイメージ画像地震や自然災害への注意を促すイメージ画像

岐阜・長野周辺の群発地震:専門家も明言できない難しさ

2023年から岐阜県と長野県の県境周辺で地震活動が活発化し、多くの地震が発生しています。この地域では今後も断続的に地震が続く可能性はあるのでしょうか?専門家の間でも、この問いに対する明確な答えはまだ得られていません。

地学の世界には、いまだに解明されていない「わからないこと」が山のように存在します。特に群発地震のメカニズムは複雑で、予測が非常に困難なケースが多いのです。

一方で、群発地震の発生メカニズムが解明された例もいくつか存在します。その代表的な例として挙げられるのが、1965年頃に長野県で発生した「松代群発地震」です。この地震活動は数年間にわたり続き、家屋の損壊など甚大な被害をもたらしました。鎌田教授の師匠である中村一明先生は、この松代群発地震について、地下深部の水が移動することで地震を引き起こしているという画期的な説を発表し、その説が定着しました。具体的には、地下深くで水が急激に移動すると、地層や岩石の内部に微細なすべり面が形成されます。これが一度に動くことで地震が発生するというものです。これは数ある群発地震の中でメカニズムが解明された貴重な例ですが、その他の多くの群発地震については、その原因がまだよく分かっていないのが現状です。地球科学は、このように未解明の現象が多い学問分野と言えます。多くの研究者が注目し、災害が発生しないよう地元の方々も懸命な努力を続けていますが、群発地震のような現象の解明はいまだに最も難しい課題の一つです。

南海トラフ巨大地震と季節の関係性:偶然か必然か?

過去に発生した南海トラフ巨大地震の中には、秋から冬の時期に発生した事例が多いように見受けられます。この統計的な傾向から、「これから起きる南海トラフ巨大地震も秋や冬に発生するのだろうか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。

しかし、専門家の見解では、地震の発生と特定の季節が関係するとは考えられていません。過去の事例における季節の偏りは、単なる偶然である可能性が高いとされています。その主な理由は、季節の変化と南海トラフ巨大地震が発生するメカニズムの間に、直接的な因果関係を示す物理モデルが存在しないためです。統計データ上、このような偏りが見られることはありますが、それに根拠のない予測を結びつけてビジネスに利用するケースも存在するため注意が必要です。

南海トラフ巨大地震がなぜ静岡沖、名古屋沖、四国沖といった特定の場所で発生するのか、というプレートの沈み込みなどに起因する基本的なメカニズムをまず理解することが重要です。季節や気候といった要素と地震発生の関連性については、より詳細な研究が必要な高度な問題であり、基本的な理解の上に成り立つべき議論と言えるでしょう。

結論:地震の謎に立ち向かう地学の知識

群発地震や南海トラフ巨大地震など、私たちの生活に大きな影響を与える地震現象には、いまだ科学で完全に解明されていない多くの謎が残されています。特に、特定の地域での群発地震活動の継続性や、巨大地震発生の正確な時期予測などは、専門家をもってしても明確に答えられない難題です。

しかし、松代群発地震の例のように、研究によってメカニズムが解明されつつある現象も存在します。地学の知識を深めることは、これらの複雑な現象を理解する手助けとなるだけでなく、地震や火山噴火といった自然災害が発生した際に、どのように行動し、どのように被害を最小限に抑えるかといった実践的な対応策を考える上でも非常に重要です。地震に関する「わからないこと」が多いからこそ、現在わかっている科学的な知見に基づいた知識を身につけ、日頃から備えを行うことが、私たち自身の安全を守るための最も確実な一歩と言えるでしょう。


参考文献:

  • 鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』(本原稿は同書より抜粋・編集)
  • 京大名誉教授が教える】首都直下地震で「最も被害が大きいと予想されるエリア」とは? (記事中に引用された参考資料)
  • Yahoo!ニュース / ダイヤモンド・オンライン 記事 (元記事URL: https://news.yahoo.co.jp/articles/f3e096365ec4a5188774ab58f0af8ea3a55a2f9c)