大ヒット映画の原作 『のぼうの城』 『忍びの国』 、本屋大賞受賞作となった 『村上海賊の娘』 など、発表する作品が次々にベストセラーとして話題となる作家・和田竜さん。前作から12年ぶりとなる、待望の新刊 『最後の一色』 (小学館)が、ついに刊行された。
物語の舞台は、織田信長が天下統一せんと勢力を拡大し続ける戦国時代。室町時代から続く、丹後守護職にある名門の若き当主・一色五郎と、信長の命で丹後を攻める、長岡(細川)藤孝・忠興親子の壮絶な戦いが描かれる本作は、いかにして生まれたのか――。
従来のイメージを覆す武者像が見えてきた
――新刊 『最後の一色』 の主人公は、無口にして豪胆、六尺を超える巨躯に魔物のような容貌を持つ“戦国時代最後の怪物”一色五郎。そしてライバルとなる長岡忠興は、決して超メジャー級人物ではありませんが、この二人の丹後国を巡る争いに着目されたきっかけは何だったのでしょうか。
和田:僕が一色五郎という人物が、長岡家に謀殺されてしまうという事件を知ったのは、海音寺潮五郎の「一色崩れ」という短編を読んでからです。さらに松本清張の 『火の縄』 という長編は、今回の小説にも登場する鉄砲の名手・稲富伊賀(治介)が主人公で、やはり一色五郎も出てきます。どちらの作品でも、五郎は近世に乗り遅れた、室町幕府の重臣である一色家のある種“お坊ちゃん”というか、貴人として描かれています。
けれど、調べていくとどうもそうじゃない。五郎は戦にも非常に長けていて、智将として知られる長岡藤孝でさえ、和睦せざるを得ない状態になったりする。しかも、一色家を滅ぼそうとしていた信長でさえ、最終的には五郎を評価していったんじゃないかということも諸説をたどると見えてきて……従来書かれていたイメージとはかなり違うんだな、ということが分かってきました。
そして、丹後守護職であった父・一色義員の跡を継いだ、五郎は数えでたった20歳くらい。長岡藤孝の嫡男の忠興も同じくらいの年齢で、調べていく過程で「これは青春の話なんだ」と構想ができていきました。





