「令和の米騒動」が日本で再び話題となっていますが、約30年前の1993年にも同様の「平成の米騒動」が発生しました。この時は冷夏による米の不作が深刻化し、秋には米の価格が急騰。政府は米不足を乗り切るため、タイ米などの緊急輸入に踏み切りました。この1993年の経験が、現在の備蓄米制度につながっています。当時の状況を知る立場から、昨今の米騒動に関する報道に違和感を覚えるという声もあります。
1993年「平成の米騒動」の背景と影響
1993年の米騒動は、記録的な冷夏が主因でした。これにより国内の米生産量が激減し、市場には米がほとんど出回らなくなりました。筆者も当時大学生で、食料品買い出しの際にスーパーから米が消え、米屋ではそれまでの倍以上、10kgあたり1万3000円という高値で売られている光景に驚愕しました。この深刻な事態に対応するため、政府はタイからのタイ米など、過去に例を見ない規模での緊急輸入を決定しました。この苦い経験は、将来の不測の事態に備えるため、国が一定量の米を備蓄する現在の制度が作られる契機となりました。
タイ米輸入時のメディア報道と食文化の衝突
タイ米が緊急輸入された際、当時のメディア報道には偏りが見られたという指摘があります。「ネズミの死骸が混入していた」といった衛生面での問題を過度に強調する報道や、「日本の料理に合わない」といったバッシングが目立ちました。衛生問題はどの食品にも起こりうる可能性があり、タイ米だけを特別視することへの疑問が呈されました。また、「日本の料理に合わない」という意見については、タイ米と日本米がそもそも全く異なる種類の米であるという理解が重要です。
日本米とタイ米:それぞれの特性と適切な調理法
日本の食卓で一般的な日本米は、短粒米で粘り気が強く、ふっくらと炊き上がります。これに対し、タイ米は長粒米で粘り気が少なく、パラパラとした食感が特徴です。この根本的な違いから、タイ米は日本の伝統的な米料理、例えばおにぎり、寿司、玉子かけご飯、納豆ご飯、あるいはアジフライ定食やサバ味噌煮定食といった定食の付け合わせのご飯には向きません。タイ米のパラパラとした特性は、スープやソースを吸い込みやすいため、中華料理やタイ料理など、液体を多く含むおかずや、チャーハンなどの炒めご飯にこそ真価を発揮します。例えば、回鍋肉、青椒肉絲、空心菜炒め、豚肉と野菜のオイスターソース炒め、麻婆豆腐などとの相性は抜群です。つまり、タイ米は日本米の代用品としてではなく、全く別の食材として捉えるべきなのです。
備蓄米の販売状況を視察する小泉進次郎農水相(当時)
まとめ
「令和の米騒動」を巡る議論は、過去の「平成の米騒動」における不作、価格高騰、そして緊急輸入されたタイ米を巡る混乱を想起させます。約30年前の経験から備蓄米制度が整備されましたが、食料供給の安定性や、異文化の食材に対する理解と報道のあり方など、現代にも通じる多くの課題が浮き彫りになります。タイ米のような輸入米も、その特性を理解し、適切な調理法を選べば、多様な食文化を豊かにする食材となり得ます。過去の教訓を踏まえ、冷静かつ多角的な視点で現在の状況を捉えることが重要です。
参考資料
https://news.yahoo.co.jp/articles/f5b9dd76bd9e77d1a0fd483fe779e5fa1062f8d0