自らの意思でヘビに噛まれ続け、体内に強力なヘビ毒への抗体を獲得したアメリカ人男性のニュースが世界を駆け巡っている。この特異な試みが、将来的にあらゆる種類のヘビ毒に対処できる「汎用解毒剤」の開発に貢献する可能性が出てきたとして、科学界からも注目が集まっている。この驚くべき男性、ティム・フリーデ氏とは一体何者なのか。
世界で深刻なヘビ咬傷問題
WHO(世界保健機関)によると、世界では年間500万人以上が毒ヘビに噛まれ、うち10万人以上が命を落とし、さらに40万人以上が手足の切断や重い後遺症に苦しんでいるという。これは開発途上国の農村部を中心に、深刻な公衆衛生上の課題となっている。
幼少期からのヘビへの情熱
米ウィスコンシン州に暮らすティム・フリーデ氏は、幼い頃からヘビに魅せられ、ヘビ毒を少しずつ体に注入し続ければ、毒に対する「不死身」の肉体を作れるのではないかという大胆な発想に至った。五大湖ミシガン湖近くの自然豊かな環境で育ち、5歳の時に毒のないヘビに噛まれた経験が、彼のヘビへの愛を決定づけた。
小学生から高校生にかけて、様々なヘビを集めては自宅の地下室で飼育し、母親に叱られながらも、ヘビは彼の人生に欠かせない存在となった。
幼少期からヘビに魅せられ、触れ合うティム・フリーデ氏
自己毒注入と20年の研究
建設作業員や工場労働者、ピザ配達員など職を転々とし、結婚して子供も授かったフリーデ氏だが、ヘビへの情熱が冷めることはなかった。そして、彼は次第にヘビが持つ「毒」そのものにも強い興味を抱くようになる。参考文献を貪り読み、コブラ、ブラックマンバ、ガラガラヘビといった危険な猛毒を自ら抽出し、それを自身の体内に注射し始めたのは、彼が30歳を迎える頃だった。
自己免疫獲得のため、ヘビに自ら腕を噛ませるティム・フリーデ氏
科学界からの注目と解毒剤開発へ
20年以上に及ぶ孤独な研究と危険極まりない人体実験の結果、フリーデ氏はついに自身の体内に強力なヘビ毒抗体を生成することに成功した。彼の類まれなる「自己免疫」の報告は、やがて科学者たちの目に留まり、バイオ企業が彼の血液を用いた研究を開始。これにより、毒ヘビの種類を問わない「汎用解毒剤」という画期的な医薬品の開発が現実味を帯びてきたのだ。彼の驚異的な体質と情熱的な探求はCNNやBBCといった主要メディアでも取り上げられ、世界中から大きな注目を集めている。
ティム・フリーデ氏の常軌を逸した自己実験は、多くの犠牲者を生むヘビ咬傷という地球規模の健康課題に対する新たな希望をもたらしている。彼の体内で生成されたユニークな抗体が、これまで実現が困難だった万能型解毒剤の鍵となる可能性があり、今後の研究の進展が待たれる。
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