日本の中枢、霞が関では、各省庁の幹部人事が国の政策決定に大きな影響を与えます。中でも、国民生活に直結する厚生労働省の事務次官人事は常に注目を集めていますが、今回、その選考過程に異例の長期化が見られ、関係者の間で様々な憶測が飛び交っています。次期トップの座を巡る水面下の攻防と有力候補の動向を探ります。
異例の長期化を見せる厚労省事務次官人事
厚生労働省では、伊原和人事務次官(昭和62年、旧厚生省入省)の続投が決定し、2年目の任期に入りました。事務方トップが2年間在任すること自体は珍しくありませんが、前任の大島一博氏(同)も2022年からの2年間務めており、「昭和62年入省組」が異例の4年間にわたり次官ポストを占める見通しとなっています。霞が関の省庁では、人材の新陳代謝を促すため、次官ポストを同期で連続させることを極力避ける傾向にあり、今回の長期化は異例の事態として受け止められています。
霞が関に位置する厚生労働省の外観
こども家庭庁長官・渡辺由美子氏を巡る動向
政府内では当初、渡辺由美子こども家庭庁長官(昭和63年、旧厚生省入省)の厚労省次官への横滑りが模索されていました。しかし、子ども・子育て政策の司令塔役と位置付けられるこども家庭庁を、厚労省の「風下」に置くかのような人事に、自民党内の厚労族議員などから強い懸念の声が上がった模様です。この影響で渡辺氏の長官在任も異例の3年目に突入。後任候補には大坪寛子健康・生活衛生局長(平成20年、厚労省入省)の名前も挙がりましたが、本人は早期にこれを否定しており、衆目一致する有力な後継者は見当たりません。
次期事務次官の最有力候補:村山誠氏
渡辺氏の古巣復帰が叶わなかったことで、厚労省の「次期事務次官」は事実上、平成2年入省組に絞られました。現時点で最も有力視されているのが、村山誠職業安定局長(平成2年、旧労働省入省)です。彼は今夏までの官房長在任期間が2年に及び、「名官房長」と評されるほど、物腰の柔らかさとフットワークの軽さで厚生ラインからも高い評価を得ています。旧労働省系の次官は村木厚子元次官(昭和53年、旧労働省入省)以来、約10年間途絶えており、村山氏が昇格しなければ「労働系の出番はない」との声が専らです。賃上げ政策が総裁選で脚光を浴びる中、労働系テーマの重要性が高まっており、村山氏への期待は一層強まっています。なお、過去の厚労省官房長経験者のごく一部を除き、ほとんどが事務次官に昇格しています。
現在の厚生労働省の幹部人事は、次期総裁選や政府の重要政策と密接に絡み合い、その決定は複雑な政治的背景と省内力学が織りなす結果と言えるでしょう。この動きは、財務省や総務省など他の主要省庁の幹部人事にも影響を及ぼし、霞が関全体の動向が引き続き注目されます。
参考文献:
「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2025年11月号「霞が関コンフィデンシャル」
文藝春秋PLUS