警視庁留置場での虐待訴訟、東京地裁が都に賠償命令 – 不当な身体拘束と尊厳侵害に違法性

警視庁新宿署の留置施設に勾留されていた20代男性が、警察官による虐待行為で精神的・肉体的苦痛を受けたとして東京都に対し165万円の損害賠償を求めた裁判で、東京地裁(篠田賢治裁判長)は2025年6月11日、都に33万円の支払いを命じる判決を下しました。この判決は、男性が抵抗していないにもかかわらず手錠などによる身体拘束を継続した点や、トイレ使用時にトイレットペーパーを与えなかった点について違法性を認め、留置施設における被留置者の人権に関する重要な判断を示しました。

留置施設内で起きた不当な扱い

訴状および判決によると、男性は2022年4月6日に強盗致傷の疑いで逮捕され、同年8月29日まで警視庁新宿署の留置施設に収容されていました。

問題となったのは、同年7月に発生した一連の出来事です。同じ部屋の収容者が発熱し、別の収容者が毛布を求めた際に、担当警察官がこれを拒否しました。これに対し、男性が「熱がある人を1時間放置するのか」「毛布1枚くらい入れてもいいのではないか」と発言したところ、男性は保護室へ連行されました。

保護室において、男性は約2時間にわたり、服を脱がされて下着姿にされ、両手首と足首を戒具(身体を拘束する道具)で縛られた状態に置かれました。その間、尿意を催した男性がトイレを求めたにもかかわらず、警察官に「垂れ流せよ」などと言われ対応を拒否されました。男性は我慢できずに、身体拘束を受けたまま寝転がされた状態で排尿せざるを得ませんでした。

また、身体拘束が解かれた後、便意を催した際にトイレットペーパーを要求しましたが、これも無視されました。やむを得ず、男性は手に水をつけて排便箇所を拭くことを余儀なくされました。

これらの警察官の対応により、男性は多大な肉体的・精神的苦痛を受けたと訴え、同年9月に警視庁を所管する東京都を相手取り提訴しました。裁判では、男性を保護室に収容したこと、および戒具を使用したことの適法性が主な争点となりました。

裁判所の判断:一部行為に違法性

東京地裁は、男性が保護室に収容されたことについて、当時大声を発していた経緯から「留置施設の規律や秩序を維持するために特に必要であると判断したことが不合理であったということはできない」とし、収容自体の必要性は否定しませんでした。

しかし、保護室に収容された後は、男性に大声を発したり興奮したりする様子が見られなかった点を重視。このような状況にもかかわらず身体拘束を継続したことについて、「留置担当官らが職務上の注意義務を尽くすことなく漫然とこれを継続したものであって、国家賠償法上、違法の評価を免れない」と判断しました。

戒具の使用については、男性が暴れたり抵抗したりしていなかったにもかかわらず、使用を決定した判断は「著しく合理性を欠く」として、その違法性を明確に認定しました。

さらに、下着のまま排尿させたり、排便時にトイレットペーパーを与えなかったりした警察官の対応についても言及。裁判所は、「合理的な理由なく、被留置者の品位や尊厳を著しく傷つけた」行為であるとし、これらの対応も違法であるとの判断を示しました。

留置場での身体拘束により傷ができた男性の腕の画像留置場での身体拘束により傷ができた男性の腕の画像

弁護団が指摘する「拷問」の問題

判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見が開かれました。原告代理人の小竹広子弁護士は、留置施設で用いられる戒具が「被留置者をことさらに貶めて反抗させないためのツール」として使用されている実態があると指摘し、その問題点を強く訴えました。

同じく代理人を務める海渡雄一弁護士は、現在用いられている戒具の使用廃止を目指していく姿勢を示しました。海渡弁護士は、警察官が抵抗していない男性に戒具を使用した行為について、「言うことを聞かせるという目的を持って鋭い痛みを与えるという意味で、拷問に当たる」と述べました。

判決後の記者会見で身体拘束の問題について説明する弁護士たち判決後の記者会見で身体拘束の問題について説明する弁護士たち

また、海渡弁護士は「この戒具を付けられたら痛いということが長い間、隠されてきた」ことに触れ、今回の裁判でその実態を明らかにした原告の功績は大きいと評価しました。

参照元

https://news.yahoo.co.jp/articles/aee6e093bf16de7bd032bff20f60143157e2c4da