NHK連続テレビ小説『あんぱん』第11週で、主人公の一人、嵩(北村匠海)の軍隊生活が描かれ始めると、物語の雰囲気は一気に重くなった。高知から小倉連隊へ配置換えされた嵩を待ち受けていたのは、連日続く理不尽な暴力と陰湿ないじめ。その凄惨な描写に、視聴者からは「辛くて見ていられない」「この先、視聴を継続できるか自信がない」といった声が少なくない。
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嵩の軍隊生活が描く理不尽な現実
第51回では、夕食のカレーライスのジャガイモの数で難癖をつけられたり、先輩隊員・馬場力(板橋駿谷)に軍帽を盗んだと濡れ衣を着せられたりするなど、嵩がさまざまな理由で隊員から理不尽な暴力を受けるシーンが連続した。わずか15分の放送時間にもかかわらず、まるでヤンキー映画のように拳が飛び交う展開は、視聴者に衝撃を与えた。直接的な暴力に加え、陰湿ないじめの描写も続き、見ているだけでメンタルゲージがすごい勢いで減っていくような感覚に襲われる。続く第52回では暴力シーンはなかったものの、相変わらず怒鳴られる場面が多く、観ていて気が滅入る展開が続いている。
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視聴者が直面する「不都合な真実」
4月からの放送で、幼少期からの嵩の成長を見守ってきた視聴者にとって、彼がこのように理不尽な暴力やいじめに晒される状況は、見ていて非常につらい。そのため、今後の視聴を継続するか迷ってしまう人がいるのも当然だろう。しかし、視聴継続を躊躇させている一番の要因は、単に嵩が苦しむ姿を見るのがつらいからだけではないのではないか。それは、「これほどまでに恐ろしいことが、この日本という国で、わずか数十年前に実際に起きていた」という、私たちにとっての「不都合な真実」から目を背けたくなる気持ちがあるからではないか。もしこれが海外を舞台にしたフィクションであれば、たとえ新兵が不当な扱いを受けていても、どこか対岸の火事、他人事として静観できる余地があるかもしれない。しかし、日本を舞台にした実話をベースに制作されている本作は、まったく話が違う。数十年前、実際に嵩のようなつらい経験をした人々がこの国に数多くいたことを想像させられ、観ている者の胸が締めつけられるのだ。
『あんぱん』の軍隊描写は、単なるドラマ内の出来事としてではなく、かつて日本で実際に起こった過酷な現実を突きつける。この描写のつらさは、フィクションを超え、日本の歴史と向き合うことの難しさを示唆していると言えるだろう。
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