声優・林原めぐみさんブログ炎上騒動から読み解く、芸能人「政治的発言」と世間の反応

声優で歌手の林原めぐみさんが自身のブログに投稿した内容が、外国人排斥を主張しているとして批判を浴び、「炎上」として報じられる事態となった。なぜ芸能人の政治的、あるいは政治とも取れる発言はこれほどまでに波紋を呼ぶのか。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は、その背景に「芸能人を下に見る態度」がある可能性を指摘する。今回の騒動は単なる個人の発言への反応に留まらず、芸能人と社会、そして「炎上」という現象自体のあり方について問いを投げかけている。

声優・林原めぐみさんの写真。ブログ投稿内容が議論を呼んでいる声優・林原めぐみさんの写真。ブログ投稿内容が議論を呼んでいる

問題となったブログの内容と寄せられた批判

騒動の発端となったのは、林原めぐみさんが2024年6月8日に公式ブログに投稿した「興味がない、わからない、知らない」と題された記事だ。「で いいんだろうか 本当に心配になってきました」と続く本文には、投稿後に一部修正されたものの、インターネット上のキャッシュなどから、韓国人YouTuberに言及した部分や、「日本ザリガニがあっという間に外来種に喰われちゃったみたいになってしまう」といった記述があったことが確認されている。これらの記述から、林原さんの問題意識が日本の現状や外来種問題、そしてそれを外国人に重ね合わせるような視点にあったことがうかがえる。

削除された部分も含め、現在のブログに残されている記述には、「日本の税金は『まずは』 税金を納めた人達へ(納めた在日外国人は勿論含む) 日本の[被災地]に 今日本を支えている学生に使ってほしいと思うのは排外主義と言われるのかしら」といった率直な問いかけが含まれている。林原さん自身も、こうした発言が「外国人を排除しているとの誹りを受ける覚悟」の上で行われたものであることを示唆しており、批判が起こることをある程度予期していたのかもしれない。

実際、ジャーナリストの津田大介氏は、この投稿に対して「ユーザーのリテラシー不足だけを責めても何も問題は解決しない」「ネットを足がかりにゼノフォビア(外国人恐怖)が蔓延し、大衆に膾炙していくのは世界中の国々で共通して起きている現象」だとX(旧Twitter)に投稿し、林原さんの発言を排外主義、そしてそれを広めるものとして批判的な見解を示した。このように、林原さんの投稿は、特定の層から「排外主義的」であるとの批判を招いたのである。

これは本当に「炎上」であり「政治的発言」だったのか?

しかし、今回の林原さんのブログ投稿とそれに続く波紋を「炎上」と断定することには慎重な姿勢も必要かもしれない。「炎上」の定義は曖昧であり、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は「ある人物や企業が発信した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」と定義している。X上で関連キーワードがトレンド入りするなど注目を集めたことは事実だが、「批判的なコメントが殺到している」と明確に言えるかどうかは判断が分かれるところだろう。リアルタイムでの追跡や過去の投稿、コメントを遡って確認した印象としては、必ずしも圧倒的な批判の「殺到」とまでは言えない可能性もある。

さらに言えば、今回のブログ投稿が「政治的発言」だったのかという点も疑問符がつく。林原さん自身は投稿を結ぶにあたり「やはり政治的な発言は、難しい」と述べているが、特定の政党への支持を表明したり、具体的な政策を非難したりする内容ではない。ブログを修正した際に林原さんが記したように、「声を上げる事すら冷ややかに日本が日本に[無関心]な事がとにかく悲しいと伝えたかった」というのが真意であるならば、それは政治的主張というよりも、現状への懸念や感情の吐露に近いと言えるかもしれない。

専門家が指摘する「芸能人炎上報道」の背景

神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は、今回の騒動、そして特に「なぜ、芸能人の政治的発言が『炎上』だと報じられるのか」という点に問題を提起する。芸能人の発言が常に「炎上」しているわけではないにもかかわらず、こと政治や社会問題に触れた途端に「炎上していると報じられる」傾向があるのはなぜか。鈴木准教授は、この背景には、必ずしもユーザーのリテラシー不足や芸能人の政権批判へのタブー視だけでは説明できない、より根深い問題、すなわち「芸能人を下に見る態度」が存在する可能性を示唆する。

社会の一部に根付く、芸能人に対するどこか見下すような、あるいは特定の枠に閉じ込めようとする態度が、彼らが本業と異なる分野、特に政治や社会問題について発言した際に、過剰に反応したり、批判の的として面白おかしく消費したりする土壌を生み出しているのではないか。今回の林原さんのケースも、その発言内容そのものの是非とは別に、著名な声優が社会問題に言及したこと自体が、こうした態度を持つ人々や、センセーショナルな報道を求めるメディアによって「炎上」というレッテルを貼られ、拡散された側面があるのかもしれない。問題の本質は、発言した側の意図や受け取った側の反応だけでなく、芸能人の発言をどのように捉え、報じるかという社会全体の姿勢にある、というのが鈴木准教授の分析である。

今回の林原めぐみさんのブログ騒動は、個人の表現の自由と、それに反応する社会、そして「炎上」という現代的な現象、さらには芸能人という立場の人物が社会問題に言及することの難しさや、それを取り巻く無意識の偏見など、様々な側面を浮き彫りにしている。

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