6月10日、小泉進次郎農水大臣は、高騰するコメ価格を抑えるため、備蓄米を追加で20万トン放出すると発表しました。さらに、「あらゆる選択肢を考える」とし、海外からのコメの緊急輸入の可能性にも言及しています。かつては国内農家保護のため「コメ一粒たりとも入れるな」と言われた時代もありましたが、現在の日本の食料事情と世界のコメ生産状況はどうなっているのでしょうか。宮城大学の大泉一貫名誉教授の見解を交え、コメ輸入のリスクについてまとめました。
日本のコメ生産、世界と逆行する現状
世界のコメ生産量は、技術進歩や人口増加などを背景に増加傾向にあります。2022年から2023年にかけての世界全体の生産量は、1960年の約3.4倍に達しています。一方、日本国内のコメ生産量は、人口減少や食生活の変化などを背景に、約50年前に比べてなんと6割も減少しています。世界的に生産量が増える中で、日本だけが大きく減少しているのが現状です。
世界のコメ生産量ランキングと日本の位置づけ
2023年の米国農務省(USDA)のデータによると、世界のコメ生産量は以下のようになっています。
1位:中国 1億4462万t
2位:インド 1億3783t
3位:バングラデシュ 3700万t
4位:インドネシア 3302万t
5位:ベトナム 2720万t
6位:タイ 2000万t
7位:フィリピン 1233万t
8位:ミャンマー 1230万t
9位:パキスタン 987万t
10位:カンボジア 740万t
コメを主食とする国が多い中、かつてコメ大国だった日本はトップ10圏外です。日本の生産量は730万tで11位となっており、上位国とは文字通りケタ違いの生産量であることがわかります。このデータからも、日本のコメ生産が世界のトレンドから大きく遅れていることが浮き彫りになります。
世界のコメ生産量は増加する一方、日本のコメ生産量が大幅に減少している状況を示すグラフ
コメ輸入に潜む大きなリスクとは?
世界で多くのコメが生産されているなら、必要な量を輸入すれば良いのではないかと考えるかもしれません。しかし、コメを輸入する際にはいくつかの大きな懸念材料があると専門家は指摘しています。
まず一つ目は、コメの「種類」の問題です。コメには主に、タイ米に代表されるパラパラとした食感の長粒種と、日本で主に消費されている粘りのある短粒種があります。しかし、世界で生産されているコメの約7割は長粒種であり、短粒種は全体のわずか2割程度です(残り1割は中粒種)。つまり、世界で流通しているコメの多くは、日本人好みの種類ではないため、たとえ輸入できたとしても国内での需要が限られる可能性があります。
二つ目の懸念材料は、コメの「輸入状況」です。生産量トップの中国とインドは、その大部分を国内消費に回しており、輸出量はわずかです。日本人好みの短粒種や中粒種のコメを比較的多く生産・輸出しているのは、日本よりも生産量が少ないアメリカ(生産量692万t)、台湾(102万t)、オーストラリア(45万t)などに限られます。タイ(2000万t)も輸出は多いですが、その多くは長粒種です(数字は2023年生産量・米国農務省データ)。また、世界のコメ生産量の合計は約5億トンですが、そのうち貿易(輸出)に回るのはたった8%に過ぎません。特定の輸出国に依存したり、国際市場のわずかなシェアで日本の需要を満たそうとしたりするのは、供給不安定のリスクが高いと言えます。
結論
小泉農水大臣がコメ価格高騰への対策として備蓄米放出に加え、緊急輸入も「あらゆる選択肢」として検討することに言及したのは、足元の供給逼迫と価格上昇への対応の必要性を示しています。しかし、宮城大学の大泉名誉教授が指摘するように、世界のコメ生産状況と日本の好み、そして国際貿易の構造を考えると、コメの輸入に過度に依存することは種類や供給安定性の面で大きなリスクを伴います。今回のコメ価格問題は、日本のコメ生産の現状と食料安全保障のあり方について、改めて議論を深める必要性を浮き彫りにしています。