紀伊半島を走るJR紀勢本線、特に白浜以南の区間が厳しい状況に直面しています。人口減少と車社会の進展という二重苦に加え、高速道路との競争激化も大きな課題となっています。今回は、紀勢本線の現状と未来について、その課題と対策を探っていきます。
利用者減少の深刻な現状
和歌山県を走る紀勢本線は、年末の観光シーズンにも関わらず、特急「くろしお」の車内は閑散としています。白浜駅で多くの観光客が下車した後、新宮駅へ向かう列車はさらに乗客が少なくなるのが現状です。
alt="パンダのラッピングが施された特急くろしおが和歌山駅に到着する様子"
紀勢本線の亀山~新宮間はJR東海、新宮~和歌山市間はJR西日本が運行しており、新宮~和歌山間は「きのくに線」の愛称で親しまれています。しかし、新宮~白浜間の輸送密度は1987年度の4123人から2023年度には935人にまで激減。国土交通省の路線見直し基準である輸送密度1000人を下回っており、年間約29億円もの赤字を抱えています。運行本数も減少し、おおむね1時間に1本程度しか運行されていません。
人口減少と競争激化という壁
alt="串本駅の位置を示した地図"
沿線地域の人口減少は深刻で、最も人口の多い新宮市でも約2万6000人。他の自治体は2万人にも満たない小規模自治体ばかりです。串本町、すさみ町、古座川町、太地町、那智勝浦町に至っては、2050年には2020年比で人口が半減すると予測されています。日常的な利用増加は見込めず、観光客誘致に期待がかかります。
しかし、高速道路の延伸により、大阪市から最南端の串本町まで約3時間でアクセス可能となり、料金もETC利用で4000円程度。一方、特急列車で大阪駅から串本駅までは約3時間半かかり、運賃は約7400円。時間と費用の面で、鉄道は高速道路に太刀打ちできないのが現状です。
活性化に向けた取り組みと今後の展望
和歌山県と沿線8自治体、JR西日本、和歌山大学は2022年に紀勢本線活性化促進協議会内に新宮白浜区間部会を設置し、利用促進策の検討を開始しました。サイクルトレインの導入、観光列車の運行、団体利用への運賃補助など、様々な対策が講じられていますが、目に見える効果はまだ出ていません。
一部自治体からは「人口減少下での利用増は困難」という厳しい声も上がっていますが、新宮市企画調整課は「沿線で行ったアンケート調査を分析し、新たな施策を検討したい」と前向きな姿勢を示しています。
紀勢本線が抱える問題は、地方路線の縮図とも言えます。地域住民の生活を支える重要な交通インフラとして、紀勢本線の存続は不可欠です。関係機関の連携強化、地域の魅力発信、そして新たな利用者層の開拓など、多角的なアプローチが求められています。今後の動向に注目が集まります。