自民党「名目GDP1000兆円」公約に潜む“不誠実”とは

自民党が参院選に向けて掲げた「名目GDP1000兆円」や「現金給付」といった公約は、一見すると景気回復を予感させ、人々の心を掴むかのように見えます。しかし、これらの数字にはどこか違和感が拭えないと感じる方も多いのではないでしょうか。経済専門家の視点から見ると、これらの公約は国民の生活苦を根本的に解決するどころか、むしろ国を不安定な状況に追い込みかねない危険性をはらんでいます。そこには「どうせ国民は細かいことは分からないだろう」という、自民党や官僚たちの不誠実な姿勢が透けて見えるのです。

石破茂首相の指示

2024年6月9日、石破茂首相は、夏の参議院選挙における最も重要な公約として、「2040年までに日本の名目GDPを1000兆円に引き上げる」という目標を含めるよう、党幹部に対し指示を出しました。

経済専門家が見る目標の評価

経済の専門家としてこの目標を評価すると、国のリーダーが示す経済目標としては極めて不適切と言わざるを得ません。同時に、数字上は決して達成不可能な目標ではない、というパラドックスが存在します。

目標達成の数字的な側面

我が国の2024年度における名目GDPは約617兆円です。これが2040年には1000兆円になるという目標は、16年間でおよそ1.6倍のGDP成長を目指すことを意味します。これを年率換算すると、これから16年間にわたり毎年平均3.1%の名目GDP成長を続ければ、目標は達成される計算になります。日本経済が長らく低成長に喘いでいる現状を考えると、「本当にそんなことが可能なのか?」と疑問に思うのが自然でしょう。

公約に隠された第一のトリック:インフレ

しかし、自民党の公約には巧妙なトリックが隠されています。その一つが、「名目GDP」という言葉です。名目GDPとは、インフレーション(物価上昇)の影響を調整せずに算出された金額です。

参院選に向け名目GDP1000兆円目標を指示する石破茂氏参院選に向け名目GDP1000兆円目標を指示する石破茂氏

例えば、内閣府のデータによると、2024年度の日本経済の実質成長率は0.8%でした。これは物価変動の影響を除いた、経済活動の真の伸びを示します。ところが、インフレの影響があったため、名目GDPは前年度比で3.7%も増加しています。このように、たとえ実質的な経済活動があまり伸びていなくても、物価が上昇するだけで名目GDPは膨らむのです。

日本経済の真の発展度合いは、本来は実質GDPの成長率で測るべきものです。政府が目標とするような年間2%のインフレが16年間続いた場合、自民党が掲げる2040年の名目GDP1000兆円が、実質的な価値としていくらになるのかを計算してみると、この目標の性質が見えてきます。

結論

自民党が参院選の主要公約とする「名目GDP1000兆円」目標は、その達成が主にインフレーションに依存する可能性が高く、実質的な経済成長や国民生活の向上を直接的に示す指標とは言えません。この数字の裏側にある経済的なメカニズムを理解せず、単に大きな目標として掲げることは、国民に対して不誠実であると言えるでしょう。目標達成のために必要な議論は、名目値だけでなく、実質的な豊かさや成長に焦点を当てるべきです。