不正改造車タイヤ脱落事故 札幌地裁判決:重傷女児父の無念と経済的不安

一昨年、札幌市西区で発生した不正改造車によるタイヤ脱落事故は、歩道を歩いていた当時4歳の女児に頚髄損傷等の重傷を負わせ、現在も意識不明という痛ましい状況が続いています。事故から1年半が経過した今年4月、運転者と車の所有者に対し有罪判決が下されました。しかし、被害女児の父親は、下された刑罰があまりに軽すぎると納得できないだけでなく、加害者が無保険であることから経済的な不安にも苛まれています。

不正改造車タイヤ脱落事故で重傷を負った女児が事故前に描いた父親の似顔絵不正改造車タイヤ脱落事故で重傷を負った女児が事故前に描いた父親の似顔絵

判決への思いと控訴断念

「4月24日、札幌地裁で2人の被告に対する刑事裁判の判決が同時に言い渡されました。運転者は懲役3年執行猶予5年、所有者は罰金20万円でした。娘は殺されたも同然です。なのに、彼らは今までと変わらぬ生活を続けられる……、執行猶予と罰金というあまりに軽い刑に納得できず、検察にはなんとか控訴してほしいとお願いしましたが、ゴールデンウィーク明けの5月7日、控訴はできないという連絡があり、翌日、判決が確定しました。本当に悔しいです」

これは、一昨年、札幌市内の歩道で、不正改造車から脱落したタイヤの直撃を受け重度の後遺障害を負った女児(5)の父親が、判決確定から1カ月後に語った言葉です。ガードレールのついた歩道を2人の幼い娘と歩いているとき、突然襲ってきた黒い塊。その一瞬を境に、次女は未来を奪われ、家族も大きな悲しみと苦しみを背負うことになったのです。

被告二名の責任と裁判所の認定

本件には、道路運送車両法違反で起訴された車の所有者・田中正満被告(51)と、自動車運転処罰法違反で起訴された運転者・若本豊嗣被告(51)の二名の被告がいます。

判決確定から1カ月経っても、父親は「渡邉史朗裁判長は、『幼く、未来ある被害者が受けた障害は非常に重大で、意思疎通できない理不尽な状況にある』と述べ、被告らに対しては、『不正改造の中でも、事故の危険性を高める部類の改造であり、相応に悪質である』と厳しく指摘しました。しかし、いくら悪質であっても、結局この程度で済むんですね。被害の大きさと刑罰のバランスがまったく取れておらず、私自身、この結果をいまだに受け入れることができません」と、悔しい胸の内を語っています。

裁判官はそれぞれの被告の責任について、判決文で以下のように認定しています。

【事故の事実】

  • 両被告は2023年10月28日、共謀して軽RV(ジムニー)のタイヤを不正に改造した。
  • 前輪に異常を感じた所有者の田中被告は、若本被告に点検を依頼した。
  • 若本被告は同年11月14日、ナットの緩みに気付かないまま運転し、脱落した左前輪を女児に衝突させた。

【所有者/田中被告】

  • 車両の所有者であり、改造を主導したということで、負うべき責任が大きい。
  • ホイールナットの緩みを助長させた責任は、一時的には所有者の田中にあり、田中が点検するべきものであった。そのため、若本(運転者)ばかりを大きく責めることは難しい。
  • 両者の供述内容をふまえると、田中はその内容が小出しに変遷しており、若本の具体的かつ合理的なそれと比べて信用性に欠ける。
  • しかし、田中には前科もなく規範意識の甘さを悔いている。

【運転者/若本被告】

  • 若本本人が行った作業として認定できるもののうち、タイヤ突出の中核を担ったとは言い難い。
  • しかし、不具合の可能性に思い至り、運転を控えることや点検義務を果たすことは容易だったはず。
  • 走行にあたっては高い注意義務を負っていたといえ、それを怠り、漫然と運転した過失は悪質。
  • 若本は整備業経験者であったが、本件車両の点検は業務として応じていたのではないため、特別に高度な注意義務があったというのは相当ではない。
  • 若本は交通事犯の前科4犯を有するが、自己の過ちを認め、今後は運転をしないと誓うなど反省が見られる。
  • 以上から、若本の過失を重大とまで評価するのはいささか躊躇を覚える。

運転者の前科と父親の問い

判決文に目を通した父親は、特に若本被告が交通事犯で前科4犯だったという事実に驚きを隠せません。「過去にも人身事故を起こし、また無免許運転でも検挙されていたようです。こうした履歴がありながら、他人名義、しかも任意保険未加入の不正改造車を平気で運転できるものでしょうか」と、強い疑問を投げかけています。

今回の判決は確定しましたが、被害者である女児とその家族が負った身体的、精神的、そして経済的な負担は計り知れません。特に加害者が無保険であることは、今後の治療や介護にかかる費用を考えると、家族にさらなる不安を与えています。不正改造車の危険性、そして交通事故における加害者の責任と被害者救済のあり方について、改めて深く考えさせられる事故と判決です。