備蓄米放出で高まる「令和コメ騒動」? オバ記者が問う日本人と米の感情論

6月に入り、政府の備蓄米が市場に広く放出され、報道では多くの店舗で行列ができる様子が伝えられました。しかし、女性セブンの名物ライターである“オバ記者”こと野原広子氏は、「“家族総出で買えるだけ買う”なんて絶対にやめた方がいい」と警鐘を鳴らします。オバ記者が、現在の「コメ騒動」とも呼べる状況に対する率直な思いを綴ります。

備蓄米の放出により多くの店舗で流通し、購入者の列が見られた様子備蓄米の放出により多くの店舗で流通し、購入者の列が見られた様子

コンビニおにぎりの変化と高騰するコメ価格

「気のせい? いや、違う。感触がまるで違うよ」先日、コンビニで手に取ったおにぎりのあまりの軽さに、思わずそう感じました。一個200円を超えるおにぎりの値段には、ガソリン代や電気代、あらゆる食品の値上げに慣れてしまった今、「まぁ仕方ない」と諦めもつきます。驚くこと自体に疲れたし、もうすぐ古希を迎える身でクヨクヨしても仕方がない。だから、神経を太くすることにしたはずでした。

それでも、このおにぎりの軽さにはどうにも納得がいきません。見た目を小さく見せないために、ぎりぎりまでゆるく握っているのではないか?そんな疑問を抱きながらコンビニのおにぎりを棚に戻し、その足でスーパーへ向かうと、最も高いブランド米である〈はえぬき〉が5kgで4780円。「殺す気か!」と、頭に血が上るのを感じました。その瞬間、かつて言われた言葉が頭をよぎったのです。

「コメの話になると日本人って感情的になるよね」

平成のコメ騒動、中国人留学生との対話

そう私に言ったのは、平成のコメ騒動(1993年秋の米不足)の直後に知り合った中国人留学生のマオくんでした。彼は古い木造アパートに住んでいましたが、日本語も英語も達者で、本国では相当な良家の子息と推測できました。

どういう経緯かは忘れてしまいましたが、彼が高菜漬けで味付けした魚の鍋をご馳走してくれたことがあります。それはまさに中国四千年の深い味わいでしたが、一緒に出てきたご飯が中国米で、正直なところ少し微妙でした。少しだけ箸をつけてご飯を残した私を見て、マオくんは「感情的」と評したのです。彼が「たしかに日本のおコメはおいしいけど、毎日食べたいとは思わない」と言うので、私はさらに反論せずにはいられませんでした。

1993年の米不足では、日本は中国から108万トン、タイから77万トン、アメリカ合衆国から55万トン、オーストラリアから19万トンのコメを輸入して急場をしのいだことが、後になって調べると分かります。しかし、私が海外米を食べたのは、あの時マオくんのアパートでだけでした。なぜなら、茨城の実家から義父が定期的にコメを車で運んできてくれていたため、米不足に困ることがなかったからです。実家では、農家から一年分まとめて購入し、玄米で保管してもらっていました。「今年は一俵60kgで2万4000円。半俵で1万2000円だけど、精米すると1割くらい糠が出て減るから半俵で27kgだな」という母親の独り言が、今も耳の奥に残っています。当時の米価格や、家族の助けがあったからこそ、平成のコメ騒動もどこか遠い出来事のように感じていたのかもしれません。

今、なぜ備蓄米のパニック買いが起きるのか?

そして現在、再びコメの価格高騰が叫ばれ、小泉進次郎農水大臣の主導で備蓄米が放出されるという状況に至っています。スーパーでの米価格を見て「殺す気か!」と感情的になってしまう自分は、マオくんの言う「コメの話になると感情的になる日本人」そのものなのかもしれません。

しかし、今回の状況と平成のコメ騒動には明確な違いがあります。あの時は「コメが ない かもしれない」という不安からの輸入や買いだめでした。今回は、政府が 持っている 備蓄米が放出されているのです。品質については賛否両論あるようですが、食べられるコメが市場に出回っている状況です。

それなのに、「家族総出で買えるだけ買う」といった過剰な反応が見られるのはなぜでしょうか。それは、単にコメの値段が高いことへの不満だけでなく、食品全体の値上げや将来への漠然とした不安が背景にあるのかもしれません。あるいは、やはりコメに対する日本人の特別な感情がそうさせているのでしょうか。個人的には、政府が放出する備蓄米を、必要以上に大量に買い込む「パニック買い」は、本当にコメを必要としている人たちや、冷静な市場の動きを阻害する可能性があるため、絶対に避けるべきだと考えます。かつての経験から、コメは生活の基盤であり、その価格や安定供給が揺らぐことは、日本人にとって非常に感情的な問題となり得ることを改めて感じています。

結論:冷静な対応こそが求められる

令和の時代に再び「コメ騒動」とも呼べる状況が起きつつありますが、その性質は過去とは異なります。確かにコメ価格は高騰し、日々の食卓に影響は出ています。しかし、備蓄米の放出は、政府が供給安定のために動いた結果です。このような時だからこそ、過剰な不安に駆られて「買えるだけ買う」といった行動ではなく、本当に必要な分だけを購入する冷静な対応が求められています。コメに対する特別な感情は理解できますが、それがパニックへと繋がるのではなく、賢明な消費行動へと繋がることを願わずにはいられません。

出典

https://news.yahoo.co.jp/articles/fb820641714526a56d9ebf589e8a10aa8b29dd46