平成16年、日本のラジオ業界で衝撃的な事件が発生しました。人気を博していたFM802の女性DJが、熱狂的なリスナーである女性からの悪質なストーカー行為に苦しめられたのです。自宅への電話やファクス、さらには物理的なつきまとい行為はエスカレートし、その異常な執着はDJの平穏な日常を根底から覆しました。本記事では、この女性ストーカー事件の詳細とその悲惨な結末について掘り下げます。
熱狂的リスナーからの暴走エスカレート
被害に遭ったのは、関西のラジオ局FM802で活躍する40代の人気女性DJでした。加害者は、当時30歳の無職の女性。彼女は平成13年頃からDJのラジオ番組を聴き始め、熱心なファンとなります。公開録音やイベントには頻繁に足を運び、時には直接言葉を交わす機会もあったといいます。しかし、そのファン心理は次第に異常な執着へと変わっていきました。
平成15年の11月頃、加害者の女性はなんとかしてDJの自宅電話番号を入手することに成功します。これを境に、自宅への無数の電話が始まりました。電話がファクス兼用だと知ると、「声が好き」「話がしたい」「好きです、なぜわかってくれないの」といった一方的な思いを綴ったファクスを送りつけます。電話の留守番電話には、容量が一杯になるほどのメッセージを吹き込み続けるという、常軌を逸した行為が続きました。
ラジオDJへのストーカー事件を描写するイメージ写真
さらに平成16年4月以降は、DJが講師を務めるダンススタジオにまで押しかけるようになります。「どうしても話がしたい」「なぜ話をしてくれないのか」などとDJに詰め寄る物理的なつきまとい行為が発生。これらの行為により、DJは心身ともに追い詰められ、ついに同年9月、警察に被害を告訴する決意をしました。
同年9月29日、大阪府警東署はストーカー規制法違反の疑いで加害者の女性(当時30歳)を逮捕しました。取り調べに対し、女性はDJを「理想の女性」だと語り、自身の行為がDJに恐怖を与えていると分かってはいたものの、気持ちを伝えたい衝動を抑えられなかったと供述したといいます。同年10月18日には罰金30万円の略式命令が確定し、二度とつきまとわないと誓約した女性は釈放されました。しかし、彼女の執着心はここで終わることはありませんでした。
釈放後の恐怖!自宅への「お礼参り」
釈放からわずか2日後の同年10月20日午後11時前、加害者の女性はDJの自宅前に再び現れました。インターホンを鳴らすなどの激しい騒ぎに、恐る恐るチェーン越しにドアを開けたDJの目に飛び込んできたのは、鬼のような形相の女性でした。女性は「よくもやってくれたな、殺したる」とDJを罵倒し、脅迫したといいます。
身の危険を感じたDJはすぐに警察へ通報。駆けつけた警察官によって女性はその場で取り押さえられました。逮捕された女性は、警察に告訴されたことへの恨みから「お礼参り」に来たと供述しました。ここで衝撃の事実が判明します。なぜ女性はDJの自宅住所を知っていたのか。それは、最初の逮捕時に警察の調書を盗み見たというのです。釈放されるやいなや、彼女は憎悪を胸にDJ宅へ向かったのでした。この夜は奇しくも大型で猛烈な勢力の台風23号が大阪を直撃した夜。暴風雨の中、それ以上に大暴れする加害者の姿に、DJは恐怖のあまりただ泣くしかなかったといいます。
被害者の失われた日常と社会への訴え
このストーカー事件は、被害者であるDJの人生を大きく狂わせました。ダンススタジオに押しかけられたことで、その教室は閉鎖に追い込まれました。そして、自宅の住所を知られ、「お礼参り」までされてしまった以上、たとえ加害者が逮捕されてもその家に住み続ける勇気はなくなりました。長年築き上げてきた仕事や生活の基盤が、一瞬にして失われてしまったのです。
さらにDJを苦しめたのは、加害者が「女性」であったことでした。女性から女性へのストーカー行為は、当時の社会ではあまり理解されず、「どうしてそんなに怖がる必要があるのか」といった心ない言葉に傷つくこともあったといいます。被害者の恐怖や苦しみが周囲に伝わりにくかったのです。
加害者の裁判を傍聴席で見守っていたDJは、法廷でこのように訴えました。「この辛さを社会にわかってもらい、被害者が守られるシステムを作ってほしい」。家も仕事も、そして何よりも平穏な日常を理不尽に奪われた被害者の女性DJと、短期間で社会復帰した加害者。このあまりにも不公平な結末は、ストーカー被害の実態と、被害者支援の必要性を強く訴えかけるものでした。
この事件は、ストーカー行為が被害者の生活にどれほど深刻な影響を与えるかを浮き彫りにしました。特に著名人や、加害者と被害者が同性の場合など、周囲の理解を得にくいケースも存在します。被害者のDJが訴えたように、ストーカー被害の現実を社会が正しく認識し、被害者が安心して暮らせるような保護体制の構築が喫緊の課題です。
参考文献
- 事件備忘録@中の人 著 『好きだったあなた 殺すしかなかった私』(鉄人社)