日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの巨額買収計画は、約1年半の難航を経て実現の見通しとなりました。買収に批判的だったトランプ前米大統領が承認へと態度を変えた背景には、買収後の巨額投資約束と、米政府に経営上の重要決定への拒否権を与える「黄金株」の発行が決め手となりました。これは、成長が見込まれる米国市場での事業拡大を狙う日鉄の戦略にとって大きな一歩となります。
日本製鉄と米USスチール、買収合意の背景にある両社のロゴマーク
買収実現への決め手:トランプ氏翻意の背景
「米製造業の復活」を掲げるトランプ氏は、当初この買収に否定的な姿勢を示していました。しかし、日鉄が買収承認を取り付けるために示した具体的な条件が、彼の態度を軟化させる大きな要因となりました。その一つが、買収後の米国での生産拡大や研究開発に対する巨額投資の約束です。さらに、安全保障上の懸念を払拭するため、米政府がUSスチールの経営上の重要決定に拒否権を持つ「黄金株」を発行することで合意したことも、決定的な要因となりました。
日鉄の成長戦略:米国市場に注力する理由
日鉄がリスクを背負ってでもUSスチール買収にこだわったのは、成長が見込まれる米国市場での事業拡大が、同社の長期的な成長戦略において極めて重要だからです。日鉄は、関連会社を含めた国内外での年間粗鋼生産能力を1億トンに引き上げる目標を掲げており、USスチール買収はこの目標達成に向けた大きな前進となります。特に、中国の過剰生産による鉄鋼市況の低迷が長期化する中、「最大の高級鋼需要国」である米国での事業基盤強化は喫緊の課題でした。
承認と引き換えの条件:巨額投資と「黄金株」の詳細
トランプ氏が承認した「パートナーシップ」に基づき、日鉄はUSスチールの普通株を100%取得し、技術流出を防ぐ観点から重要視してきた「完全子会社化」を実現します。しかし、その代償として、日鉄は買収資金約2兆円に加え、米国での生産拡大などに約2兆円規模の追加投資を約束しました。また、安全保障上の懸念に対処するため、取締役の過半数を米国籍とし、米政府との間で黄金株の発行を盛り込んだ国家安全保障協定を締結しています。
市場の懸念:投資負担と黄金株のリスク
この買収承認に伴う異例の条件は、市場の一部から懸念も生んでいます。買収の見返りとして約束されたUSスチールへの巨額投資は、日鉄の経営にとって重しになる可能性が指摘されています。さらに、シンガポールに拠点を置く投資ファンドである3Dインベストメント・パートナーズは、米政府が黄金株を保有することについて、「有事の際に機動的な構造改革を実施できない」と批判しており、日鉄の経営陣再任に反対の意向を示すなど、今後の経営への影響が注視されています。
日本製鉄によるUSスチール買収は、数々の難題を乗り越え、米政府の承認を得るまでに至りました。巨額投資と黄金株の発行という異例の条件は市場の懸念も呼んでいますが、米国市場での足場固めを目指す日鉄の長期的な成長戦略において極めて重要な意味を持つことは間違いありません。
参考資料:Yahoo!ニュース