映画『国宝』田中泯が魅せる「人間国宝」の凄み:伝統芸能と社会の交差

吉沢亮と横浜流星の共演で話題沸騰中の映画『国宝』が公開され、ネット上ではその内容に対する絶賛の声が相次いでいる。中でも、歌舞伎の人間国宝を演じる俳優・田中泯(80)の圧倒的な存在感が大きな話題を呼んでおり、観客は彼の演技に深く引き込まれている。日本の伝統芸能である歌舞伎の世界を描く本作において、田中泯が演じる人間国宝は物語の核となる存在だ。

映画『国宝』の背景と物語

本作は、芥川賞作家である吉田修一氏が、歌舞伎の「黒衣」として実際に楽屋に入り、3年間密着取材した経験をもとに書き上げた同名小説が原作となっている。極道の息子として生まれながらも歌舞伎の世界に魅せられ、芸の道を究めることに人生を捧げる主人公・喜久雄の波乱に満ちた50年間を描く一代記だ。喜久雄役には李組初参加となる吉沢亮、そして喜久雄の終生のライバルとなる歌舞伎界の御曹司・俊介役を横浜流星が演じる。監督は、『悪人』や『怒り』でも吉田作品を手がけた李相日氏が務めた。

田中泯が演じる「人間国宝」歌舞伎役者

ダンサーとして世界的に知られ、『たそがれ清兵衛』(2002年)で鮮烈な俳優デビューを飾って以来、唯一無二の存在感を放つ田中泯。彼が本作で演じるのは、当代随一の女形であり、国の重要無形文化財保持者、すなわち「人間国宝」である歌舞伎役者、小野川万菊だ。万菊の登場シーンは限定的だが、日本一の女形を目指す喜久雄と俊介の芸の道を大きく左右する、まさに運命のキーパーソンとして描かれる。

特に、喜久雄にとっては歌舞伎の世界に没頭する原点となった、カリスマ的な存在だ。少年時代の喜久雄が万菊の「鷺娘」の舞台を観て、「恐ろしいわ。バケモンや」と衝撃を受ける場面は、彼のその後の人生を決定づける。その圧倒的な表現力によって生まれた恍惚の瞬間を追い求め、喜久雄は芸の道に邁進していくことになる。ここで描かれる「人間国宝」は、単なる役柄を超え、日本の伝統芸能を未来へ繋ぐ文化的・社会的な役割をも象徴している。

映画『国宝』劇中、田中泯演じる人間国宝・小野川万菊が歌舞伎舞踊「鷺娘」を舞う姿。映画『国宝』劇中、田中泯演じる人間国宝・小野川万菊が歌舞伎舞踊「鷺娘」を舞う姿。

役への慎重な姿勢

「人間国宝」という、歌舞伎界における最高峰の役柄を演じるにあたり、田中自身は非常に慎重な姿勢を見せていた。5月30日に京都で行われたジャパンプレミアでは、「とにかく桁外れの門外漢があって、やってはいけないことかもしれないとドキドキするような仕事」と語り、「まだ未だに僕の中では終わった気がしてない」と、その役作りの深さと難しさを示唆した。

観客を圧倒する存在感とSNSの反響

田中泯の謙虚な言葉とは裏腹に、映画が公開されるやいなや、彼の演じる万菊の圧倒的な存在感に魅せられた観客からの絶賛評が続出した。特に、人間離れしたような田中の佇まいはSNS上で大きな話題となり、劇中の喜久雄や俊介と同様に、その凄みに圧倒された観客からの声が多数投稿されている。「本物の人間国宝だった」「本当に女形の方かと思うくらい」「異次元」「化け物だった」「凄味がありすぎた」「存在感が怖いくらい凄かった」「万菊の手招きのシーン良かったなぁ」「もはや人ではない何かが映っているよう」といったコメントは、彼の演技が単なる模倣ではなく、役柄の魂を宿したかのような、強烈なインパクトを与えていることを物語っている。

映画『国宝』に登場する人間国宝の歌舞伎役者、小野川万菊(演:田中泯)の劇中肖像。映画『国宝』に登場する人間国宝の歌舞伎役者、小野川万菊(演:田中泯)の劇中肖像。

この反響は、伝統芸能における「型」と、それを超越する「芸」の力、そしてそれを現代に伝える俳優の役割について、改めて考えさせるものだ。

結論

映画『国宝』における田中泯の「人間国宝」としての演技は、単なるキャラクター描写を超え、日本の伝統芸能である歌舞伎が持つ奥深さと、それを体現する最高峰の芸の凄みを、観客に強烈に印象づけている。その圧倒的な存在感と観客の熱狂的な反響は、現代社会における伝統文化の力、そしてそれを次世代に伝える役割の重要性を改めて浮き彫りにするものと言えるだろう。

参考資料