実話に基づく恐怖:アラスカを震わせた連続殺人事件と映画「フローズン・グラウンド」

「事実は小説より奇なり」という言葉があるように、時に現実は最も恐ろしい物語を生み出します。特に、実在の犯罪者、それも理解に苦しむ残忍な手口を持つ殺人鬼をモデルにした作品は、フィクションとは異なる生々しい恐怖を観る者に突きつけます。今回取り上げるのは、実話に基づいた連続殺人鬼映画であり、アラスカで実際に発生した衝撃的な事件を描いた「フローズン・グラウンド」です。この作品は、極寒の地で繰り広げられた信じがたい現実の恐怖を、緊張感あふれる筆致で再現しています。

映画「フローズン・グラウンド」で、アラスカ連続殺人事件の被害者シンディを演じたヴァネッサ・ハジェンズ映画「フローズン・グラウンド」で、アラスカ連続殺人事件の被害者シンディを演じたヴァネッサ・ハジェンズ

映画「フローズン・グラウンド」の概要

2013年に製作されたアメリカ映画「フローズン・グラウンド」は、1983年のアラスカ州アンカレッジを舞台としています。物語は、娼婦のシンディ・ポールソンが手錠に繋がれた状態で保護される場面から始まります。彼女はロバート・ハンセンという男に殺されそうになったと証言しますが、ハンセンが地域社会で評判の良い人物であったため、当初その証言は真剣に受け止められませんでした。しかし、シンディを保護した警官は疑念を抱き、州警察に調書を送ります。

その頃、州警察の刑事ジャック・ハルコムは、相次いで発見される変死体の捜査を進めていました。遺体の状況から同一犯による犯行を確信していたハルコムは、シンディの調書を受け取ったことで、ハンセンが一連の連続殺人事件の犯人ではないかと疑いを強めます。決定的な証拠が掴めないまま捜査が続く中、犯人の魔の手は再びシンディに迫るのでした。

実在の連続殺人犯ロバート・ハンセン

本作「フローズン・グラウンド」は、通称「ブッチャーベイカー(屠殺パン屋)」と呼ばれた実話連続殺人鬼、ロバート・ハンセンが1980年代にアラスカ州で引き起こした恐ろしい事件を題材にしています。ロバート・ハンセンは、1971年から1983年にかけて、アンカレッジ周辺で少なくとも17人の女性を拉致・殺害したとされています。彼の犯行手口は極めて残忍で、犠牲者を僻地の荒野に連れ出し、自動小銃やナイフを使って「狩り」をするかのように追い詰めて殺害するというものでした。

ハンセンは1983年に逮捕され、有罪判決を受けました。その刑は、仮釈放なしの461年という事実上の終身刑でした。映画では、12年間で多数の犠牲者を出したこの連続殺人鬼を、刑事の執念深い捜査とプロファイリングを交えながら追い詰めていく過程が描かれます。

映画が描く真実と恐怖

極寒アラスカの雰囲気と犯人の薄気味悪さ

「フローズン・グラウンド」では、極寒のアラスカの寒々しさと、犯人であるロバート・ハンセンの持つ薄気味悪さが克明に描かれています。善良な市民として振る舞いながら裏では猟奇的な犯行を繰り返すハンセンの二面性は、観る者に深い不信感と恐怖を与えます。また、事件発生当初の警察の初動捜査の遅れは、現実社会における捜査の困難さや、時に事件が見過ごされる可能性を示唆しており、アラスカの遠隔地という設定と相まって、リアルな恐ろしさを感じさせます。

現実との繋がりとメッセージ

作中では、直接的な死体描写や犯行シーンの詳細は控えめですが、セリフや状況描写によってその残忍性や猟奇的性が十分に伝わってきます。特に、ラストシーンで「この映画を犠牲者に捧げる」というテロップとともに、実際の犠牲者たちの写真が映し出される瞬間は、これがフィクションではなく、現実に多くの命が失われた痛ましい事件であったことを改めて突きつけます。

この映画は、連続殺人鬼が必ずしも異様な外見をしているわけではなく、ごく普通の人間の顔をしてすぐ近くに潜んでいるかもしれないという、身の毛のよだつような可能性を観る者に意識させます。「フローズン・グラウンド」は単なるスリラーとしてだけでなく、実話の重みを通じて、現実の恐怖と人間の闇に深く迫る怪作と言えるでしょう。それは、世界中のどこでも起こり得る、社会の暗部を映し出した鏡のような作品です。