韓国で李在明大統領の就任が確定し、日本と中国の国際政治専門家へのインタビューが行われた。前政権である尹錫悦政権は、日本との外交関係および韓米日3カ国協力の強化を重視する姿勢を示していた。李在明政権の発足後、日本は尹政権時代の対日外交基調の維持を期待している一方、中国は方向転換を望んでいる。このような両国の異なる期待は、それぞれの国の専門家へのインタビューからも読み取ることができる。本稿では、日本の専門家として、立命館大学の中戸祐夫教授(国際関係学)がハンギョレのインタビューで語った、李在明政権下の日韓関係の展望に焦点を当てる。日本のメディアは、李大統領が野党政治家だった時期に「反日」と報じる傾向があったが、大統領就任後の「実用外交」「歴史との分離対応」「韓日パートナーシップ」といった発言を受け、日本政府内でも早期の韓日首脳会談開催を期待する声が出ている。中戸教授の見解は、こうした日本の期待を裏付けるものとなっている。
◆ 李在明大統領への日本メディアの見方と政権への期待
日本のメディアでは、李在明大統領に対して過去「反日」というレッテルを貼る報道が散見された。これは、韓国の政治家を「親日」か「反日」に分類し、その傾向を分析する日本の報道慣行とも関連が深い。しかし、李大統領が選挙期間中から就任後にかけ、「実用外交」「歴史問題と領土問題の分離対応」「韓日パートナーシップ」を繰り返し強調してきたことにより、日本の李大統領に対する見方も変化を見せている。石破茂首相が韓日首脳会談の早期開催に言及するなど、日本政府は尹錫悦政権時代の対日政策が李政権下でも維持されることを期待している様子だ。
今月4日に京都でインタビューに応じた立命館大学の中戸祐夫教授(国際関係学)は、日本のこうした見方を裏付ける発言をしている。ハンギョレによる追加の電子メールインタビュー(9日実施)でも、同氏は現在の東北アジアが置かれている厳しい戦略的環境を考慮すると、韓国の李在明新政権と日本の協力強化は避けて通れない選択肢であるとの見解を示した。朝鮮半島政策、日米関係、米中通商摩擦などを専門とする中戸教授は、現在立命館大学東アジア平和協力研究センター長を務めている。同氏は、まず韓日首脳会談を可能な限り早期に実現させ、前政権で行われていた首脳間のシャトル外交を李在明政権でも継続できるという実績を示すことが重要だと強調した。
立命館大学の中戸祐夫教授が李在明政権下の日韓関係についてインタビューで語る様子
◆ 「反日」懸念と実用外交への転換
中戸教授は、日本では「大統領李在明」が現実となった場合、韓国政府が「反日傾向」を強めるのではないかという懸念が確かに存在したことを認めた。この懸念は、文在寅政権時代に日韓関係が悪化した過去の経験と深く結びついているという。李大統領が歴史問題や領土問題に対して「原則的対応」を強調している点を考慮すると、これらの問題が今後再び顕在化する可能性も完全に排除することはできないとの見方を示した。
しかしながら、中戸教授は、李大統領が大統領選挙の過程で「実用外交」や「歴史の分離対応」といった発言を行い、「反日」懸念を払拭しようと努めてきた点を指摘した。日韓両国は、国内の政治状況に加え、米国の相互関税といった対外的な課題においても同様に困難な立場に置かれている。このため、李在明政権の発足初期においては、互いに対立をできる限り回避しようとする可能性が高いとの予測を示した。さらに同氏は、今年が戦後(韓国の光復)80年、韓日国交正常化60年という節目の年であることを踏まえ、「過去を忘れよう」とするのではなく、両国が未来志向的なアプローチでどのような協力を推進できるかを共に考えることの重要性を強調した。
◆ 未来志向のアプローチと主要国との外交展望
李大統領は就任後、速やかに本格的な首脳外交を開始すると見られる。今月中には、主要7カ国首脳会議(G7サミット)や北大西洋条約機構(NATO)首脳会議といった国際舞台で、韓米首脳や韓日首脳が初めて対面する機会が訪れる可能性がある。中戸教授は、特にトランプ大統領のような指導者を相手にする場合、最も重要なのは「まず信頼関係を構築すること」だと助言した。
京都で行われたハンギョレによる中戸教授への取材風景
外交経験が十分でない李大統領が、トランプ大統領との初対面で「信頼できない」という直観的な印象を与えてしまうと、今後の外交に否定的な影響が及ぶ恐れがあるとの懸念を示した。李在明政権にとって最優先課題は「経済問題」であることから、米国との関税交渉などを解決するためにも、G7サミットのような国際舞台でのデビューは入念に準備する必要があるとも指摘した。また、米国では李大統領が「中国に近いのではないか」と懸念されている可能性があるため、中国との外交関係も韓米同盟を前提としていることを米国に明確に伝える必要があるとも述べた。北朝鮮との関係については、韓米両首脳ともに状況の改善と発展を望んでいる点を踏まえ、両国の共通点を見出し、具体的な展望を示すことで合意点が見出せるだろうとの見通しを示した。
◆ 日米韓協力の進展と「新冷戦」構造
中戸教授は、李在明政権下でも韓米日3カ国協力は一定水準以上進展するとの見通しを示した。李政権の外交の方向性は、依然として韓日、韓米日協力の重要性を明確に示唆しており、これは日本政府の方向性とも一致する。このため、「新冷戦」とも呼ばれる米中対立の構図において、韓米日関係は今後も進展する可能性が高いという。
しかし、同氏は、各国自身の利益のためにも、韓米日協力の強化が中国と敵対的な関係へと変質することは避けるべきだと警告した。外交関係は韓米日の三国間に限定されるものではないため、「韓中日外交」の枠組みも同時に進展させていくことが重要であると強調した。
◆ 米国第一主義への対応:日韓協力の可能性
中戸教授は、トランプ政権に代表される米国第一主義への対応においても、日韓両国には協力の余地があるとの見解を示した。同氏は、トランプ式第一主義は、第二次世界大戦後、日韓両国が経済発展の基盤としてきた自由主義国際経済秩序を破壊する可能性があると指摘した。日韓にとって、トランプ政権に直接対抗することは現実的に難しいだろうが、両国が協力し、国際会議や多国間交渉の場で「自由で開かれた経済秩序を維持する」という共通の意思を表明するなどの努力は重要であるとの考えを示した。特にこのような局面では、新しい(韓国の)政権リーダーシップが果たす役割が極めて重要であると補足した。
日韓関係の専門家である中戸祐夫氏のインタビュー内容を伝える写真
日韓間の対立で調整が難しいのは主に歴史問題であるが、それ以外の分野では両国が協力できる空間は非常に広いと同氏は説明した。例えば、米アラスカでの天然ガス開発事業への参加は、日韓両国の企業および政府にとって機会であり、関心の対象となっている。こうした事業は、両国が経済協力の新たな形を検討してみる価値のある事例だとした。
中戸教授は、米国が東北アジア地域への米軍の関与を縮小する一方で、日韓に対して防衛費の増加を要求し、駐留米軍の分担金も増やそうとしている現状に言及した。(米国が日韓にとって不利な要求をしつつ、同時に)中国への牽制は共に実行しようというのは、かなり無理のある要求であることは確かだとの見解を示した。
◆ 南北関係の現状と展望
南北関係については、当面は小康状態が続くだろうとの見通しを示した。北朝鮮は韓国との関係を「敵対的な二つの国の関係」と定義しており、韓国側もこれまで厳しい態度を取ってきた。韓国で新政権が発足したからといって、南北関係が突然劇的に変化することを期待するのは難しい状況にある。中戸教授は、まず李在明政権がどのような対北朝鮮政策の構想を提示し、北朝鮮側がそれをどのように解釈するかが極めて重要であると分析した。
◆ 朝米関係の見通し
第一期トランプ政権時代に一時的に雪解けの兆しが見られた朝米関係についても、中戸教授は慎重な見方を示した。現在のトランプ政権にとって最優先課題は関税交渉とウクライナ戦争の終結であり、北朝鮮に関する政策の優先度は低い。まだ北朝鮮問題を扱うための十分な準備ができていないように見えるという。一方、北朝鮮の金正恩国防委員長も、2018年のトランプ大統領とのハノイ会談決裂を経て「米国に裏切られた」という思いがあるはずであり、両者ともに直ちに積極的に動くとは考えにくいと予測した。しかし、同氏は、トランプ大統領と金委員長はともに、再び接触する機会を十分にうかがっているだろうとの見方を示唆した。ウクライナ問題などが安定に向かえば、朝米関係と北朝鮮の非核化が再び主要な課題として浮上する可能性は残されていると締めくくった。
日韓関係は歴史問題で困難を抱えるものの、厳しい国際情勢下で協力は不可避であり、新しいリーダーシップによる実用的な外交努力が求められているというのが、立命館大学中戸祐夫教授の分析である。
参考資料:ハンギョレによる中戸祐夫教授インタビュー