シニア世代の過酷な労働実態:「70代活躍中」求人の裏に潜む現実

日本社会において、「働く高齢者」の存在は今や不可欠なものとなっています。しかし、その労働実態は多くの人が想像する以上に過酷であり、時に驚くべき現実に直面することもあります。労働ジャーナリストの若月澪子氏による21人の高齢労働者への密着取材から見えてきた、「シニアの働き方」の具体的な実情を探ります。

「活躍中」の裏に隠された採用側の本音

求人情報に頻繁に見られる「活躍中」という言葉は、「学生さんが活躍中」「20〜30代の女性が活躍中」といった形で、特定の年齢層や属性の人材を強く求める採用側の意図を反映しています。このような表現は、特定の層以外の応募を事実上排除する「結界」のような役割を果たしています。

雇用対策法では、採用時に年齢制限を設けることが禁止されています。しかし、年齢にこだわりを持つ雇用主は、「活躍中」というフレーズを巧みに用いることで、間接的に働き手を選別しているのが現状です。例えば、「60代が活躍中」と記された求人は、往々にして「人手不足」で「報酬が低い」現場であることが多いとされます。

70代が活躍する現場:清掃業の実態

さらに、「70代が活躍中」を標榜する求人となると、首都圏では「清掃」がその代表格と言えるでしょう。まれに警備員の求人も見られますが、ビル、駅、公共施設、病院などで清掃員として働くシニアの姿は珍しくありません。これらの現場は、一体どのような仕事内容で、どのような環境にあるのでしょうか。

労働ジャーナリストの若月澪子氏が実際に体験した「70代が活躍中」の現場は、ある病院の清掃業務でした。「60〜70代活躍中」「病院の清掃」「時給1163円」という条件で応募したその求人の時給は、2025年3月時点での東京都の最低賃金にあたります。

労働ジャーナリストが潜入取材:時給1163円の病院清掃

取材対象となったのは、終末期のがん患者の緩和ケアを行う、病床数200床ほどの病院でした。開院から50年以上の歴史を持つその病院は、茶色のレンガ調の外観で、古さがにじみ出ています。面接に呼ばれたのは、病院の屋上に設置されたプレハブ小屋。そこが清掃員の控室と清掃用具置き場を兼ねていました。煤けた壁には掃除機やモップが立てかけられ、洗濯済みのタオルが何枚も吊り下げられているその場所は、お世辞にも清潔とは言えない状況でした。

清掃道具が置かれた休憩室のイメージ清掃道具が置かれた休憩室のイメージ

終末期医療の現場で働く厳しさ

終末期医療を行う病院という特殊な環境での清掃業務は、単に汚れを落とすだけでなく、患者さんのプライバシーや衛生状態に細心の注意を払う必要があります。古い施設であることも、清掃作業にさらなる困難をもたらす可能性が考えられます。そして、最低賃金で働く70代のシニア労働者が、このような厳しい環境でどのような日常を送っているのか、その実態は決して楽なものではないことがうかがえます。

結論

高齢化が進む日本において、シニア世代の労働は社会を支える重要な要素となっています。しかし、「働く高齢者」の実態は、時に劣悪な労働条件や低賃金といった厳しい現実に直面していることが浮き彫りになります。求人情報に隠された意図を読み解き、現場に密着することで見えてくるのは、社会の片隅で懸命に働き続けるシニアたちの姿です。彼らが安心して、尊厳を持って働ける環境を整えることは、今後の日本社会にとって喫緊の課題と言えるでしょう。

参考文献

  • 若月澪子. 『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』 朝日新書.