吉田修一氏の傑作小説を原作とし、吉沢亮氏と横浜流星氏がダブル主演を務める映画『国宝』が公開され、歌舞伎界の壮絶な人間ドラマとして大きな反響を呼んでいます。この注目作の舞台の一つとして、日本各地に今も息づく伝統的な「芝居小屋」が重要な役割を果たしています。これらの芝居小屋は、単なる撮影セットではなく、「生きている文化財」として、作品の世界観に深みを与えています。本記事では、映画『国宝』に登場する芝居小屋の魅力と、そのロケ地となった場所について掘り下げます。
映画「国宝」のロケ地にもなった出石永楽館。日本各地に残る歴史的な芝居小屋の一つ。
映画『国宝』の世界観:歌舞伎に捧げる生 (せ)
映画『国宝』は、任侠の血を引きながら女形として才能を開花させる喜久雄(吉沢亮氏)と、歌舞伎界の名門に生まれ、その道を宿命づけられた俊介(横浜流星氏)という二人の役者の人生を軸に描かれます。李相日監督と脚本家・奥寺佐渡子氏の手により、歌舞伎という華やかな世界の裏にある厳しさや葛藤、そして芸に命を懸ける人々の生き様が、迫力ある映像で紡ぎ出されています。観客からは、キャスト陣の渾身の演技に対する称賛の声が多く聞かれます。
物語を彩る「生きている文化財」:芝居小屋
歌舞伎座や南座といった格式高い大劇場はもちろん、祇園の歌舞練場など、様々な舞台が登場する中で、特に印象的なのが、地方に残る伝統的な芝居小屋でのシーンです。これらの芝居小屋は、明治から昭和初期にかけて大衆芸能の中心地として栄え、地域の人々に親しまれてきました。時代を経て一度は姿を消しかけたものの、保存活動によって今もなお現役で活用されており、「生きている文化財」としてその価値が見直されています。映画『国宝』では、こうした歴史ある芝居小屋が、登場人物たちの原点や内面を映し出す鏡のように機能しています。
映画『国宝』の主要ロケ地:兵庫県豊岡市「出石永楽館」
映画『国宝』の重要なロケ地の一つが、兵庫県豊岡市出石町にある「出石永楽館」です。明治34年(1901年)に開館した永楽館は、近畿地方で現存する最古の芝居小屋とされ、国の登録有形文化財に指定されています。奈落や回り舞台、花道といった江戸時代の芝居小屋の様式を今に伝えており、その独特の雰囲気は、映画の時代背景や登場人物が置かれた状況を表現する上で、説得力のある空間を提供しています。映画を観て、永楽館の魅力に気づき、実際に訪れてみたいと感じた人も多いことでしょう。
映画『国宝』は、日本の伝統芸能である歌舞伎の深遠な世界を描くと共に、そこに息づく歴史的な芝居小屋という「生きている文化財」にも光を当てています。これらの芝居小屋を訪れることは、映画の感動を追体験するだけでなく、日本の豊かな文化遺産とその歴史に触れる貴重な機会となるはずです。