仕事中にふとスマホに手がいったり、些細なことで集中が途切れたり――そんな経験は誰にでもあるだろう。長時間にわたって集中力を維持する秘訣は、実は休憩時間の過ごし方にあるという。数々のビジネスエリートを取材してきたアメリカ在住のジャーナリストが、人生の密度を上げる時間の使い方として、効果的な集中力回復法を解説する。特に重要なのは「ぼんやり」と過ごすことだ。本稿では、仕事の集中力を回復させる休憩方法について掘り下げる。
なぜ仕事中に気が散るのか?集中力の限界
オフィスでパソコン作業や会議資料に集中していたはずなのに、ある時点から急に机周りの整理をしたくなったり、仕事後の予定を考え始めたりと、関係ないことに気がとられてしまう経験はないだろうか。集中しなくてはいけないと思っているのに、気づけばスマホを手に取りSNSをチェックしている。ハッと我に返り自己嫌悪に陥るが、これは実は避けがたい自然な現象らしい。
仕事中に集中力が途切れ、スマホに手が伸びる様子。
実は、一つのことに集中し続ける状態(方向性注意)は、90分が限界だと言われている。それ以上続けても集中力は徐々に低下していくのだ。この事実は、ミシガン大学の環境心理学者レイチェル&スティーブン・カプラン夫妻によって提唱された注意回復理論(ART)で証明されている。
同理論では、消耗してしまった「方向性注意」(集中力)を回復させるためには、自然の中で過ごすことが推奨されている。自然の中では、五感すべてを使うことで注意が分散された状態になる。矛盾するように聞こえるかもしれないが、このような「ぼんやり」とした状態での注意(これを「選択性注意」と呼ぶ)が、実は集中力を取り戻すのに効果的なのである。自然の風景を眺めていると、日常の煩わしさから解放される感覚を得られるだろう。
また、自然の中を歩くとき、自然とマインドフルネスの状態にも入りやすい。頬に当たる風を意識し、木々の間に差し込む木漏れ日のきらめきを見つめ、呼吸をしながら身体の感覚に意識を向ける。そうすることで、日常の煩わしい思考や、否定的な自己対話から解放されるのだ。
「ぼんやり」が集中力を回復させる理由と、やってはいけないこと
こうした開放感は、脳が「デフォルトモードネットワーク(DMN)」に切り替わった証拠だ。デフォルトモードネットワークは、ワシントン大学の神経学者マーカス・レイクル氏の論文で知られるようになった概念で、安静時にもかかわらず活動を示す複数の脳領域の存在が証明された。
驚くことに、この「ぼんやり」とした状態でも、仕事や勉強をしているときよりも脳は15倍ものエネルギーを使うという説もある。そして、この活動こそが、仕事や勉強で消耗した注意力の減少を回復させてくれるのだ。
だから、休憩時間にスマホを見て息抜きをしてしまうのは逆効果である。スマホは私たちに次々と刺激を与え続けるため、脳はかえって疲労してしまう。休憩時間は意図的に、あえて「ぼんやり」と過ごすことが推奨される。
その際一つ注意が必要なのは、「ぼんやり」すると、自己批判やネガティブな考えが次々と浮かんでしまう癖がある人もいることだ。そのような傾向を自覚している人は、自然の中でマインドフルネスを実践することで、その傾向を避けることができる。「いま、ここ」に意識を集中させ、緑の多い公園の中を10〜15分歩くだけでも、副交感神経が整い、集中力を回復させることが期待できる。
効果的な「ぼんやり」休憩の実践法
外の自然に触れる時間がなかなか取れない場合は、せめてオフィスや部屋にいくつかの植物を置いてみよう。デスクワーク中に視界に植物が入るだけでも、注意力の回復に繋がり、ケアレスミスが減る可能性がある。
例えば、重要な会議が始まる直前に、慌てて資料の準備をしているようでは、最高の集中力で臨むのは難しい。会議の5分前だけでも、意識して植物の前でぼんやりと過ごす時間を作ってみてはどうだろうか。これだけで、その会議の生産性が高まるかもしれない。
結論
仕事中の集中力は90分程度が限界であり、その後は意識的に回復させる時間が必要となる。その回復には、単なる休息ではなく、「ぼんやり」とした状態に入ることが効果的であり、特に自然の中で過ごすことや、身近に植物を置くことが有効である。スマホでの息抜きは刺激が多すぎるため逆効果となりやすい。意図的に脳を「ぼんやり」させる時間を持つことで、集中力を持続させ、仕事の生産性を向上させることができるだろう。短時間の自然浴や、オフィスに植物を置くなど、日常に取り入れやすい方法から試してみてはいかがだろうか。