自民党の政権復帰後、本格的な国会論戦が始まった。自らの政権を「危機突破内閣」と銘打った安倍晋三首相は、1月28日の所信表明演説でも、日本が当面しているさまざまな国難に立ち向かう決意を示し、各党や国民に協力を呼びかけた。この姿勢は評価できるものだし、直近の世論調査にも反映されている。
安倍首相が言うように、日本には数々の危機が立ちはだかっている。内政に限っても、デフレと円高不況に直面した経済の危機や、東日本大震災からの復興がいまだ進まない危機、あるいは国の根幹をなす教育の危機、と枚挙にいとまがない。
外交の危機はさらに深刻だ。民主党政権では、米軍普天間飛行場移設をはじめ日米関係で適切さを欠く言動が相次いだ。失敗の烙印(らくいん)を押さざるを得ない。中国や韓国との関係も同様であり、東南アジア諸国での日本の存在を小さなものにしてしまった。国際社会での日本の地位や発言権の回復は最も急を要するだろう。
外交政策の基軸である日米同盟を一層強化した上で日中関係や対アジア太平洋政策を展開していくことは言うまでもない。日米間で大局的な外交戦略を共有することも非常に大事だ。ただ、今の日米関係には、普天間問題、そして環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加問題が横たわる。
普天間問題では、今の政府と沖縄は若干遊離した状況にあり、双方が一体にならなければ打開できない。
「少なくとも県外移設」と約束した鳩山由紀夫政権の失策は是正しなければならないが、沖縄側の全面的な協力を得るには、まずは政府、沖縄双方とも平穏冷静な状態に戻る必要があろう。政府は「辺野古移設ありき」で臨むのではなく、住民が危険にさらされている市街地に飛行場がある現状とそれを取り除く原点に立ち返り、「なぜ移設が必要なのか」というところから丁寧な話し合いを再構築することが大事だろう。
TPPについては自民党内に交渉入りへの慎重論が多い。情報収集を含めた事前協議を行うことまで否定すべきではない。
中国との関係改善には、タイミングや仕掛けが必要となる。
安倍首相が先週訪中した公明党の山口那津男代表に習近平中国共産党総書記宛の親書を届けさせたのは、関係改善に向けた一つの努力かもしれない。しかし、親書に対しては目下のところ、中国側の積極的な反応はみられなかった。先方には安倍政権の対中総合戦略がいまだ十分に見えなかったようにも思える。
米国を軸に据えた東南アジア諸国との協力ラインを構築する重要性とともに、一方では、良き助言者や手足となって下働きに汗を流す人材を駆使して中国側との接触を水面下で試みる必要もある。安倍首相は国会答弁で「大局的観点」からの関係構築に意欲をみせたが、その陣形はまだできていないようにもみえる。
尖閣諸島の問題では日本としての毅然(きぜん)たる姿勢を保持しつつも、外交に責任を持つ首相として今の局面を総合的に勘案して打開する糸口を積極的に見いだしていってほしい。自民党政権へと回帰した国民世論の支持も、まさにこうした現状からの転換とそのための挑戦を期待しているのだ。(なかそね やすひろ)
<2013/02/01(金) 東京本紙朝刊 朝1面掲載>