先週発生したエア・インディア機の墜落事故について、調査当局はコックピット・ボイス・レコーダー(CVR)の回収に成功しました。これは事故原因解明に向けた重要な一歩となります。インド西部アーメダバードを出発しロンドンに向かっていたボーイング787-8型ドリームライナーが、現地時間6月12日午後1時38分の離陸直後に墜落。この事故により、乗客乗員と地上にいた人々を合わせ、少なくとも270人が犠牲になったとされています。
調査の進展:CVR回収とブラックボックスの役割
回収されたCVRは、操縦室内の音声、パイロットの会話、警報音、周囲の環境音などを記録する装置です。一方、飛行データ(高度、速度、エンジンの性能など)を記録するフライト・データ・レコーダー(FDR)は、事故翌日の13日に機体の残骸から既に回収されていました。これらCVRとFDRは、俗に「ブラックボックス」と呼ばれ、航空機事故調査において不可欠な存在です。専門家はこれらの記録を用いて、飛行の最終局面を詳細に再現し、事故の根本原因を特定します。
「ブラックボックス」という通称とは異なり、実際にはこれら二つの装置は発見を容易にするため、明るいオレンジ色に塗装され反射材が施されています。また、墜落の衝撃に耐えうるよう堅牢に設計されています。
エア・インディア機墜落事故現場で回収された機体の一部と調査員
国際的な協力体制とインド政府の対応
今回の墜落事故の原因調査は、インドの航空機事故調査局(AAIB)が主導し、アメリカおよびイギリスの調査チームが支援する形で進められています。6月15日には、米国家運輸安全委員会(NTSB)の職員が墜落現場を視察しました。NTSBはこの日の声明で、「AAIBが詳細な調査を開始しており、またアメリカ製の航空機であることから、NTSBも国際的な取り決めに基づき並行して調査を行っている」と説明しました。インドの複数のメディアは、墜落機を製造したボーイングの関係者と、米連邦航空局(FAA)の職員も現場を訪れたと報じています。
一方、インド政府は事故原因検証のため高官級の委員会を設置し、6月16日に初会合を開催しました。オール・インディア・ラジオによると、同委員会は今後3カ月以内に予備報告書を提出し、同様の事故再発を防ぐための新たな標準作業手順(SOP)を提案する見込みです。
犠牲者の身元確認作業の遅れと遺族の苦悩
調査が進行する一方で、現地では多数の犠牲者を出したことによる深い悲しみと混乱が続いています。特に、犠牲者の身元特定作業は難航しており、遺族は不安な日々を送っています。墜落機は離陸後わずか60秒足らずで高度を失い、バイラムジー・ジージーボイ医科大学および市民病院の医師らの居住施設に激突しました。乗客乗員242人のうち、40歳のイギリス人男性1名を除く全員が死亡。地上の犠牲者を含め、これまでに現場から270体の遺体が収容されたと報告されています。
多くの遺体が激しく焼損していたため、身元確認はDNA鑑定に頼らざるを得ず、非常に時間を要しています。アーメダバード市民病院のラジニシュ・パテル医師は16日時点で、DNA鑑定により90人以上の身元が確認され、そのうち47体が遺族に引き渡されたと述べました。しかし、関係者によると、作業は少人数のグループに分けて慎重に進められており、全体として遅れている状況です。身元が確認された犠牲者の中には、グジャラート州のビジャイ・ルパニ元州首相も含まれており、16日に葬儀が執り行われました。
アーメダバード市民病院の外でめいの身元確認を待っていたミストリー・ジグネーシュ氏は、14日にBBCの取材に対し、当局から「遺体の引き渡しにはさらに時間がかかる可能性がある」と告げられたと語りました。当初、DNA鑑定は通常72時間で完了し、15日には引き渡しがあるとの説明を受けていたジグネーシュ氏は、「まだ行方不明者がいるのに、15日までにDNA鑑定が終わるはずがない。もしめいの遺体がまだ見つかっていなかったらどうするのか。この待ち時間が私たちを苦しめている」と、複雑な胸中を明かしました。
結論
エア・インディア機墜落事故の原因究明は、ブラックボックスの回収によって大きく前進しました。インド当局が主導する調査は、国際的な専門機関の協力のもと進められています。しかし、事故の悲惨さから、犠牲者の身元確認作業は極めて困難を極めており、多くの遺族が身元特定と遺体引き渡しを待ち続けるという辛い状況に置かれています。政府委員会の設置など、再発防止に向けた動きも始まっていますが、まずは事故の全容解明と犠牲者の尊厳ある扱いに注力されることが求められています。