警察官に連れられ、署の外に姿を現したその男は、終始顔を伏せていた。車に乗り込むまで、一度も顔を上げることはなかった。6月12日、神奈川県警は自称清掃業の美嶋隼人容疑者(43)を不同意わいせつの疑いで逮捕したと発表した。美嶋容疑者はかつて「堂上隼人」の名前で福岡ソフトバンクホークスに所属していた元プロ野球選手だった。4月20日午後11時半ごろ、横浜市保土ケ谷区の路上で、帰宅途中の18歳女性の上半身を無理やり触るなどしたとされる。女性との面識はなく、防犯カメラの映像解析から美嶋容疑者が浮上。取り調べには「弁護士が来るまで話しません」と黙秘しているという。
不同意わいせつ容疑で送検される元プロ野球選手・美嶋隼人容疑者。うつむき、目がうつろな様子
元プロ野球選手としての経歴
「堂上隼人」としてプレーしていた頃、彼は横浜商科大学で強肩捕手として活躍後、社会人野球の強豪・日産自動車へ進んだ。その後、2006年に四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズに入団し、リーグ年間MVPに選ばれるなど中心選手として活躍した。この間、メジャーリーグのボストン・レッドソックス入りするという話も浮上していたとされる。2008年のドラフト会議で育成選手としてソフトバンクに入団。2010年には一軍昇格を果たし、プロ初安打も記録した。
ソフトバンク在籍時の強制わいせつ事件 (2012年)
しかし、堂上は2012年8月24日、球団から突如、契約を解除されることになる。きっかけは、彼が起こした強制わいせつ事件だった。2012年8月19日夜10時半ごろ、福岡県糟屋郡のアパートに帰宅した20歳のアルバイト女性に対し、後ろから近づき「俺の顔を見るな」と脅迫。髪の毛を引っ張るなどの暴行を加え、自身の股間を触らせた疑いが持たれた。堂上は強制わいせつ容疑で同月23日に逮捕されたが、さらにその1ヵ月前の7月にも古賀市や福岡市東区などで2件の強制わいせつを行っていたことが発覚し、その後、再々逮捕された。
公判と判決、そして隠された過去
公判で堂上は罪を認め、謝罪の言葉を述べた。動機については、一軍への出場機会が少なく不安に駆られていたことやコーチとの人間関係に悩んでいたことを挙げたが、「今でもわからない」とも答えていた。2013年1月に下された判決は懲役2年の実刑判決だった。堂上側は執行猶予付きの判決を求めて控訴したが、「以前にも同種の罪で有罪判決を受けており、刑事責任を軽視できない」として棄却された。この時、ソフトバンク入団前にも同じような罪を犯して有罪となっていたことが明らかになった。レッドソックス入団がかなわなかったのは、この過去の犯罪歴によりビザが下りなかったためだと言われている。
さらに遡る不祥事 (2004年ごろ)
2012年の事件当時、フライデー誌も過去の不祥事を取材していた。美嶋容疑者は横浜商科大学、日産自動車時代から悪い噂が絶えなかったという。実際、2004年の夏ごろに被害に遭ったという女性は証言している。《私が勤めていた横浜市内のクラブで彼は、危険人物として有名でした。月に一度は店に顔を出していましたが、酔うと人格が変わって乱暴になるんです。その日も彼は友人数人と来て、テキーラを20~30杯飲んで泥酔していました。しまいには上半身裸になり、BGMに合わせて激しく踊り始める始末で》。踊り疲れて席に戻った彼の目は、完全に据わっていたという。事件はその直後に起きた。《私がトイレに立つと、いつの間にか彼が後ろに立っていたんです。彼は『俺はこうやって女を犯すのが好きなんだ』と言って、私の腕を掴み、トイレの個室に連れ込んでスカートをたくし上げようとしました。私は怖くなって『キャー!!』と大声で叫びました。すると彼は急に手を放し、トイレから出て行ってしまったんです。席に戻っても、怖くて彼とは目も合わせられませんでした》。
2012年の事件当時、堂上は結婚したばかりの妻がいたことが報じられている。彼はこれまで、自らが犯した罪によって、懸命に積み重ねてきた努力、実績、そしてプロ野球選手としてのチャンスを繰り返し失ってきた。元プロ野球選手「堂上隼人」、現自称清掃業「美嶋隼人」として今回再び不同意わいせつ容疑で逮捕されたこの男は、今後も同じ過ちを繰り返していくのだろうか。この一連の事件は、社会における性犯罪の根深さと、再犯防止の難しさを改めて浮き彫りにしている。