世界を揺るがす「テック・ジャイアント」のリスクとは

マイクロソフトのビル・ゲイツ氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏ら世界で最も裕福な8人の個人資産合計は約48.6兆円に上り、これは世界人口の下位36.75億人の資産合計に匹敵します。この圧倒的な富の集中は、単なる格差問題を超え、巨大IT企業、いわゆる「テック・ジャイアント」が戦争や民主主義、雇用など人類全体に及ぼす影響の大きさを物語っています。彼らがもたらす潜在的なリスクについて解説します。

テック・ジャイアントの代表的存在であるビル・ゲイツ氏の肖像テック・ジャイアントの代表的存在であるビル・ゲイツ氏の肖像

巨大化する富と公共の空洞化

公共領域の空洞化を加速させているのが、巨大な資産を持つ「テック・ジャイアント」です。カール・ロイズやジョエル・コトキンらの著書は、これらの巨大企業が主権国家システムであるウェストファリア・システムや民主政にもたらすリスクに警鐘を鳴らしています。テック・ジャイアントは既に中規模国の国家予算に匹敵する資産を持ち、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)の純資産合計はフランスのGDPに匹敵すると言われます。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は約33.28兆円、テスラのCEOイーロン・マスク氏は約29.92兆円もの個人資産を有しています。世界の富の大半が超富裕層に排他的に蓄積されるという傾向は、ますます深刻化しています。

テスラのCEOであり、巨大IT企業のリーダーとして影響力を持つイーロン・マスク氏テスラのCEOであり、巨大IT企業のリーダーとして影響力を持つイーロン・マスク氏

先端技術がもたらす潜在的リスク

テック・ジャイアントの先端技術は、現在の世界秩序を根底から揺るがす潜在的なリスクを秘めています。AI搭載兵器は戦争の形態を一変させる可能性があり、ディープフェイク技術や国民監視システムは民主政を破壊する恐れがあります。また、技術革新は大規模な雇用喪失を引き起こすかもしれません。これらの場合、テクノロジーの進化がもたらすメリットよりも、それが社会にもたらすリスクの方が大きいと考えられます。

楽観史観から慎重主義へ

これまでテクノロジーの進化は自然な過程であり、誰にも止められない楽観的な進歩史観が信じられてきました。しかし現在、その考えに疑問を持つ人々が増えています。この傾向は「テクノ・プルデンシャリズム」(技術的慎重主義)と呼ばれ、技術進化がもたらすリスクを慎重に評価する姿勢が広まっています。

巨大テック企業の莫大な富と先進技術は、世界に前例のない影響を及ぼしています。富の集中が進み、AIや監視技術は社会構造や民主主義の根幹を揺るがしかねません。技術進化の恩恵を享受しつつも、それがもたらすリスクを現実的に捉え、「技術的慎重主義」に基づいた対応が不可欠となっています。これは、私たちの社会が直面する喫緊の課題と言えるでしょう。

参考:内田樹『沈む祖国を救うには』、カール・ロイズ『「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』(東洋経済新報社)、ジョエル・コトキン『新しい封建制がやってくるグローバル中流階級への警告』(東洋経済新報社)