5カ月ぶりの再会だった。正直、見違えた。前回会ったときは、土色の顔で生気がなかった。今、目の前にいる彼女は薄い紅を差しイヤリングをしている。
黎明さん(34)。中国上海生まれ。2008年に香港に留学した。すでに香港永住権を取得し、2年前に香港の男性と結婚。現在は香港の大学で社会学の講師を務めている。
6月14日、立法会(議会)近くの陸橋で初めて会ったとき、彼女はハンガーストライキの真っ最中だった。「中国で生まれた私だからこそ、中国の恐ろしさが分かるのです!」
香港から中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の審議中止を求め、大学の仲間たちと12日からハンストに突入していたのだ。
会った翌日、病院に収容されたことは、香港紙を読んで知っていた。
「ハンスト開始から90時間ぐらいたったころでした。血糖値が下がり、意識がもうろうとして、危ないところだったそうです」
--中国から移住して11年、自分のことをもう香港人になったと思いますか?
「いいえ、私は香港人から見ても、中国人から見ても、よそ者です。だから『異郷人』じゃないかな」
「中国人の中には、私のことを裏切り者とみる人もいます。心配した父親から、中国の愛国ビデオが送られてきました」
--中国には帰らない?
「分かりません。でも、上海の友人が9月に香港で一緒にデモに参加したのですが、中国に戻ってから拘束されてしまったのです」
香港に来たのは23歳のとき。市民たちが自由に自分たちの政府を批判しているのを見て驚いたという。
「自らの発言に気を付けなくていい社会を不思議に思いました」
香港では今、5カ月以上にわたり抗議活動が続いている。香港政府や中国を支持するか否かをめぐる社会の分断が深刻だ。
そもそも香港は、中国本土から逃れてきた移民たちで成り立ってきた社会にもかかわらず、中国への反感が高まる中で、最近、中国の新移民たちへの風あたりも強まっている。
「多元文化を尊重してきた香港の価値観を守ってほしい。相手を100%否定しないという価値観です。たった1つの声というのは良くない」
対立が先鋭化する今の香港社会では、なかなか表明しにくい意見である。
「このままだと(反政府運動が勝利したとしても)別の形で極端な政府が生まれてしまう。そんな気がするのです」
香港人でも、中国人でもない異郷人だからこそ、言えることがある。(香港 藤本欣也)
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