日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2024年5月の訪日外国人旅行者数は推計369万3300人に達し、単月として過去最高を記録しました。前年同月比で21.5%の大幅増となり、日本の観光産業はかつてない活況を呈しています。このインバウンド需要の波は、都市の景観や人々の流れにも大きな変化をもたらしており、特に東京都渋谷の街では、その影響が顕著に現れています。
長年にわたり渋谷の変遷を見つめてきた関係者は、現在の状況について「かつて若者文化の中心として『カオス』と評された時代とは異なる形で、再び異様な活気に包まれている」と指摘します。特に、渋谷センター街に位置するゲームセンターには、連日驚くほど多くの外国人観光客が押し寄せており、新たな観光スポットと化している様相を呈しています。
訪日客急増、渋谷のゲーセンに変化
JNTOのデータが示す通り、訪日外国人旅行者数の増加は続いており、日本の各地で様々な現象が見られます。その中でも、日本のゲームセンターが外国人観光客の間で急速に注目を集めている点は特筆に値します。特に、若者文化の発信地である渋谷のゲームセンターは、その中心地の一つとなっています。
渋谷センター街を金曜日の夜に訪れると、通り沿いの複数のゲームセンターが外国人観光客で溢れかえっている光景を目の当たりにします。店舗内では、英語、中国語、フランス語など、様々な言語が飛び交い、国際色豊かな賑わいを見せています。この光景は、従来の渋谷のイメージとは異なり、インバウンドがもたらした新たな日常と言えるでしょう。
外国人を魅了する日本のゲーセン文化
海外にもゲームセンターは存在しますが、なぜ日本の、特に渋谷のゲームセンターがこれほどまでに外国人観光客を惹きつけるのでしょうか。その背景には、日本のゲームセンターが持つ独自の魅力があると考えられます。
特に人気のクレーンゲーム
ゲームセンターの中でも、外国人観光客に圧倒的な人気を誇るのがクレーンゲームです。日本のクレーンゲームは、その景品の多様性と質の高さで知られています。人気アニメのキャラクターグッズ、フィギュア、ぬいぐるみ、さらにはユニークな食品サンプルなど、日本独特のサブカルチャーやプロダクトが景品として並んでいます。これは、欧米などのゲームセンターでは見られない特徴であり、日本のポップカルチャーに興味を持つ外国人にとっては、たまらない魅力となっています。
実際に、イスラエルから来た20代の男性は、アニメフィギュアを手に満足げに語りました。「3000円使ってようやく取れた。最高の気分だよ。日本の文化は神社仏閣もいいけど、こういう現代のカルチャーもすごくクールだと思う。」
イギリスから訪れた男性も、日本のゲームセンターを「街のど真ん中にあるのが珍しい。日本ならではの風景だ」とその立地や存在感を評価し、クレーンゲームに挑戦した体験を興奮気味に話しました。
アメリカからの観光客は、「アメリカにもアーケードゲームはあるけど、こんなに明るくて賑やかな雰囲気のところはなかなかない」と日本のゲームセンターの雰囲気の違いに触れ、「アニメが好きだから、クレーンゲームにアニメキャラの景品がたくさんあって興奮した!5000円使ったけど、一つも取れなかった。めちゃくちゃ難しいね」と、その難易度も含めて楽しんでいる様子でした。
グアムから家族で来日した女性は、「家族全員で楽しめるのが魅力。気づけば2万円も使ってしまっていました」と語り、日本のゲームセンターが単なる遊び場ではなく、家族で共有する「観光の定番」となっている現状を伺わせました。
渋谷センター街で賑わう多くの外国人観光客。日本のインバウンド増加を象徴する光景。
こうした声から、日本のクレーンゲームは単に景品を獲得する行為だけでなく、「日本らしい体験」「アニメ文化との接触」「家族や友人との楽しい時間」といった複合的な価値を提供しており、それが外国人観光客を強く惹きつける要因となっていることが分かります。
変化の裏側:新たな「カオス」と課題
外国人観光客のゲームセンターへの殺到は、経済的な活性化をもたらす一方で、かつての渋谷を知る人々からは、新たな「カオス」の出現という声も上がっています。特にゲームセンター周辺では、多くの観光客が立ち止まり、景品を見たり、プレイを見物したりすることで混雑が発生しています。
渋谷のゲームセンター前でクレーンゲームの景品などを見ながら集まる外国人観光客たち。
また、記事の冒頭で示唆されているように、一部では騒音や路上での飲食といったマナーに関する問題も指摘されており、インバウンドの増加に伴う新たな課題も浮上しています。日本の独特なゲームセンター文化が外国人観光客に熱狂的に受け入れられる一方で、その影響が街の秩序や住民生活に及ぼす側面にも、今後さらに注目が集まる可能性があります。渋谷のゲームセンターは、日本のインバウンドブームが生んだ現象の一断面として、その光と影の両方を示しています。