遺族年金「5年で打ち切り」改正が成立へ 年収600万円夫を亡くした妻への影響をシミュレーション

遺族年金は、一家の主な稼ぎ手が亡くなった際に、残された家族の生活を支える重要な公的年金制度です。最近、「遺族年金の支給が5年で打ち切りになる」という情報がSNSなどで拡散され、多くの関心を集めました。この見直しを含む年金関連法案は国会に提出され、2024年6月13日に成立しています。これにより、遺族年金の受給額が減るのではないかという懸念が広がっています。

本記事では、年収600万円の夫が会社員として20年間厚生年金に加入した後に亡くなったと仮定し、遺された妻(子どもなし)が受け取れる遺族年金が、今回の改正によってどのように変わるのかを具体的に試算します。また、見直しの主なポイントや留意点についても詳しく解説します。

遺族年金改正の概要

遺族年金は、国民年金または厚生年金の被保険者が亡くなった場合に、その方に生計を維持されていた遺族に支給される年金です。制度には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の二種類があり、それぞれ受給要件や内容が異なります。

今回の法改正で見直しの対象となったのは、会社員などが加入する厚生年金の被保険者が亡くなった場合に支給される「遺族厚生年金」です。これまでの制度では、遺族厚生年金の額は亡くなった方の厚生年金加入期間や報酬に基づいて計算される報酬比例部分の4分の3とされ、一定の要件を満たせば生涯にわたって受給が可能でした。

主な改正ポイント

今回の遺族年金の見直しにおける主要なポイントは、大きく分けて「給付期間の柔軟化」と「男女間の公平性確保」の二点です。

遺族年金「5年で打ち切り」改正が成立へ 年収600万円夫を亡くした妻への影響をシミュレーション
図表1 遺族厚生年金 改正による支給期間と対象年齢の比較 (子なしの場合)

これまでの制度では、夫を亡くした妻が30歳以上であれば、原則として遺族厚生年金を無期限で受給できました(子のいない場合)。しかし、改正後は、遺された妻に子どもがいない場合、この無期限支給の開始年齢が60歳以上に引き上げられます。つまり、妻が60歳未満で子どもがいない場合は、遺族厚生年金の支給期間が最長5年間に制限されることになります(図表1参照)。

また、これまでは妻を亡くした夫は、原則として55歳以上でなければ遺族年金の給付対象とならないなど、性別による要件の差異が存在しました。今回の改正では、この男女間の要件が共通化され、より公平な制度設計が目指されています。

年収600万円夫死亡ケースでの受給額シミュレーション

それでは、具体的なケースとして、年収600万円(月額平均標準報酬額50万円相当)の夫が、22歳から会社員として20年間(240ヶ月)厚生年金保険料を納めた後に亡くなった場合を想定します。遺族は夫と同い年で子どもがいない妻とします。

まず、夫の厚生年金の報酬比例部分を概算します。「平均標準報酬額 × 5.481 ÷ 1000 × 加入月数」の計算式を用いると、50万円 × 5.481 ÷ 1000 × 240ヶ月 ≒ 約65万7720円となります。遺族厚生年金はこの額の4分の3なので、約65万7720円 × 3/4 ≒ 約49万3290円(年額)と算出されます。

従来の制度(妻が30歳以上で子なしの場合)では、この妻は65歳まで「中高齢寡婦加算」として年額62万3800円が加算されました。したがって、年間の受給額は約49万3290円 + 62万3800円 = 約111万7090円です。仮に夫が42歳で亡くなったとすると、妻は42歳から65歳までの23年間、この額を受給できる可能性がありました。この場合の受給総額は、約111万7090円 × 23年 ≒ 約2569万円となります。

一方、改正後の制度(妻が42歳で子なしの場合)では、遺族厚生年金の支給期間は最長5年間に制限されます。支給額自体は、遺族の就労促進などを考慮し、計算方法が変わることで従来の約1.3倍になるとされています。しかし、中高齢寡婦加算は段階的に廃止される方向です。単純計算で、基本となる年額約49万3290円が5年間支給されるとすれば、約49万3290円 × 5年 × 1.3 ≒ 約320万円程度の受給総額にとどまる可能性があります。

このように、65歳までの期間に限定して比較すると、今回の改正によって受給総額が2000万円以上減少する可能性が示唆されます。

なお、夫が20年間支払った厚生年金保険料の総額は、平均標準報酬額50万円に対し月額保険料率18.3%(労使折半前の総額)として、月額約9万1500円(事業主負担含む)。個人負担分のみで見ても月額約4万5750円です。20年間(240ヶ月)では、個人負担分だけでも約4万5750円 × 240ヶ月 = 約1098万円となります。改正後は、支払った保険料の額に対して、遺族年金として受け取れる額が大きく下回るケースが発生し得ることが分かります。

改正による影響と今後の留意点

今回の遺族年金改正は、子どものいない比較的若い遺族、特に妻に対する影響が大きいと言えます。5年間の支給制限により、その後の生活設計において公的な保障に頼れる期間が短縮されるため、自助努力による備えの重要性が増します。

ただし、今回のシミュレーションは特定の前提に基づいた単純計算であり、実際の受給額は個別の加入期間、報酬、年齢、今後の法改正などによって変動する可能性があります。また、65歳以降の老齢厚生年金への影響や、死亡分割による遺族年金への加算など、考慮すべき要素は多岐にわたります。

遺族年金制度の改正は、社会情勢の変化や世代間の公平性を踏まえたものですが、個々の家計にとっては大きな影響を及ぼす可能性があります。今回の改正内容を正確に理解し、必要に応じて専門家への相談や、生命保険、貯蓄、iDeCo、つみたてNISAといった自助努力による資産形成などを検討することが、今後の不確実性に対応するために重要となるでしょう。

Source: Yahoo!ニュース/Financial Field