古代DNAで復元された1万年前のベルギー女性 青い目と明るい肌の発見が多様性を示唆

約1万500年前に現在のベルギーで生きていた先史時代の女性の遺骨から、古代DNA分析を用いてその顔貌が復元されました。ベルギーのゲント大学を中心とする研究チームは、この女性が青い眼を持ち、肌の色はこれまで解析された西欧中石器時代の人々の大半に比べ、やや明るかったことを発見しました。この画期的な研究結果は、当時のヨーロッパにおける人類集団の遺伝的多様性に関する新たな知見をもたらしています。

最新研究による驚きの発見

この女性の遺骨を調査したゲント大学の考古学者イザベル・デグルーテ氏は、女性がほぼ同時期に現在の英国にいた「チェダーマン」と同じ人類集団に属していたものの、肌の色がより明るかったと指摘しています。これまでの研究では、初期のヨーロッパの狩猟採集民は一様に暗い肌の色をしていたと示唆されていましたが、今回の発見はそうした従来の前提に疑問を投げかけます。デグルーテ氏によれば、女性は35歳から60歳の間で亡くなったとみられ、頭蓋骨の分析から高い鼻梁や、女性としては力強い眼窩上隆起(眉の上の隆起)を持つことも確認されました。

遺伝的多様性への新たな示唆

これらの発見は、中石器時代の西ヨーロッパにおいて、すでに人類集団間に肌の色などの相当な多様性があったことを強く示唆しています。ゲント大学の考古学者フィリップ・クロンベ氏は、女性の肌の色が少し意外だったとしつつも、比較対象となる古代DNAが解析された中石器時代の人々が限られている現状に言及しました。クロンベ氏は、これまでに解析された西欧の個人は全員が同一の遺伝集団に属していたが、現在の多様性と同様に、当時の広大な地域内である程度の変異が存在することは自然に予想されると述べています。

ベルギー、マルゴー洞窟で発見された中石器時代の女性の顔復元図。古代DNA分析により、肌の色が示唆されたより明るく、青い目を持っていた可能性が示されている。ベルギー、マルゴー洞窟で発見された中石器時代の女性の顔復元図。古代DNA分析により、肌の色が示唆されたより明るく、青い目を持っていた可能性が示されている。

異例の埋葬地、マルゴー洞窟

この女性の遺骨は、ベルギー南東部のディナンにあるマルゴー洞窟で1988年から1989年にかけて行われた発掘調査の際に発見されました。この洞窟からは、他の8人の女性の遺骨と共に見つかったといいます。デグルーテ氏は、中石器時代の埋葬地では通常、男女や子供が混在しているため、女性ばかりが見つかったこの洞窟は「異例の発見だった」と語っています。遺骨の多くには黄土が振りかけられており、これは儀礼的、象徴的な行為に関連する慣習と考えられています。また、遺骨の大半は石の破片で丁寧に覆われており、うち1人の頭蓋骨には死後に付けられたとみられる切り傷がありました。さらに興味深い点として、この埋葬洞窟が数世紀にわたって使用されていたことが挙げられます。これは、移動性の高い狩猟採集生活を営む人々にとって、繰り返し戻ってくる記憶の場所となっていたことを示唆しています。

古代DNA分析と技術進歩

遺骨が回収された当時は、現在ほど高度な古代DNAの研究技術は存在しませんでした。クロンベ氏が指摘するように、発掘後に技術は大きく進歩しており、今回の学際的なプロジェクトは最新の手法を駆使して過去の発掘物を再分析するものです。女性の頭蓋骨から「良質な」DNAが抽出できたことで、「非常に詳細な復元」が可能になりました。肌や髪、目の色は古代DNAの分析結果に基づいています。宝石類や入れ墨といった他の要素については、ムーズ川流域の別の遺跡から得られた考古学的なデータが参考にされており、これらを組み合わせて日常生活の想像図が作成されました。

まとめ

ベルギーのマルゴー洞窟で発見された約1万500年前の女性の遺骨に対する最新の古代DNA分析は、中石器時代の西ヨーロッパにおける人類の顔貌や肌の色に関する驚くべき知見をもたらしました。青い目と比較的明るい肌の発見は、当時の狩猟採集民の間にもすでに多様性が存在したことを示唆しており、従来の理解を覆す可能性があります。今回の研究は、最新技術を用いて過去の発掘物を再調査することの重要性を示しており、人類の歴史と遺伝的多様性に関する理解を深める上で重要な一歩となります。

参考文献:

この研究はベルギーのゲント大学を中心とするチームによって行われました。
記事内容はCNNなどによる報道に基づいています。