ライブコマースの新潮流:朝6時に高級食材が飛ぶように売れる驚きの現場

今、Eコマースの分野で「ライブコマース」が注目を集めています。これは単なるネット版のテレビショッピングとは異なり、リアルタイムでの双方向コミュニケーションが特徴です。驚くべきは、一般的なビジネス時間とはかけ離れた、朝の6時に商品が飛ぶように売れるという現象が起きている点です。この新しい販売手法は、日本の消費スタイルや経済にどのような影響を与えるのでしょうか。

ライブコマース、「一対数千」の顧客接点

ある日午前6時に始まったTikTokライブ配信では、一人の女性が精力的にフグ刺しなどの商品を販売していました。視聴者からは「おいしそう」「解凍方法を教えて」といったコメントがリアルタイムで寄せられ、活発なやり取りが生まれていました。この視聴者との即時的な対話こそが、テレビショッピングとの決定的な違いであり、ライブコマースの最大の強みです。店舗での「一対一」の接客に対し、ライブコマースでは「一対数千」というスケールでの接客が可能になると語られています。

凄腕経営者・燕咏靖氏の挑戦

この早朝ライブ配信で販売を行っていたのは、S-ホールディングス社長の燕咏靖氏です。中国出身の燕氏は、約20年前に語学留学で来日し、ファッション業界での経験を経て自身のブランドを立ち上げました。現在では、ネット通販事業で年間売上50億円を達成するほどの成功を収めています。普段はアパレル製品を中心に扱っていますが、昨年の能登半島地震を機に、「お世話になった日本に貢献したい」という思いから、地域産品の販売にも力を入れるようになったといいます。

ライブコマース早朝配信で高級フグを紹介するS-ホールディングス社長ライブコマース早朝配信で高級フグを紹介するS-ホールディングス社長

早朝の奇跡:午前6時の販売戦略とその背景

しかし、ビジネスの常識を超えた午前6時という開始時刻は、やはり多くの人が疑問に思う点でしょう。燕氏によると、「昼間は社長業務で多忙なため早朝配信を始めたのですが、これが結果的に出勤前や子供を送り出す準備をする女性たちのライフスタイルに合致したようです」とのこと。この日も準備した商品はわずか3時間ほどで完売。高級食材であるフグが早朝に若い女性に売れるという事実に、商品を提供した会社の社長も「半信半疑だったが、正直驚いた」とコメントしています。

日本におけるライブコマースの未来

ライブコマースは、中国ではすでに40兆円規模にも迫る巨大市場となっています。日本でも、近々TikTokアプリ内での購入完結システムが実装される予定であり、今年はまさに「ライブコマース元年」となる可能性を秘めています。この新しい販売手法が、地方経済の活性化に貢献し、冷え込む日本経済の新たな起爆剤となり得るのか、今後の展開が注目されます。

ライブコマースは、リアルタイムのインタラクションと戦略的な配信時間により、これまでのECとは一線を画す可能性を示しています。特に早朝というニッチな時間帯での成功事例は、その柔軟性と市場開拓能力の高さを物語っています。中国での成功を背景に、日本でも本格的な普及が進めば、地域経済の支援や新たな消費の創出に繋がるかもしれません。

出典: 「週刊新潮」2025年6月19日号 掲載 / 新潮社