廃食油が次世代燃料SAFの貴重な資源に 日本の回収・活用最前線

飲食店や家庭から出る廃食油が、次世代の航空燃料「SAF」の原料として注目され、その価値が飛躍的に高まっています。脱炭素社会の実現に向け、化石燃料に代わる新たな「資源」として、取引価格は3年で3倍に上昇したとのデータもあり、廃食油の回収と活用に向けた動きが日本各地で広がっています。

熊本空港や企業が連携し廃食油を回収

熊本県益城町にある熊本空港では、敷地内で使用済みとなった食用油の回収が行われています。6月上旬には、作業員が空港ターミナル内の飲食店11店から出る廃食油(月約480リットル)をドラム缶に移す作業を行いました。回収された油は現在、飼料やインク、アスファルトの原料などに再利用されています。空港運営会社は、廃食油をSAFの原料としても活用するため、今年3月に石油元売り大手のENEOSと連携協定を締結しました。

熊本空港の敷地内で廃食油をドラム缶に回収する作業員熊本空港の敷地内で廃食油をドラム缶に回収する作業員

ENEOSは熊本空港との連携に加え、博多ラーメン店「一風堂」を運営する企業などからも廃食油を収集しています。同社は、和歌山県に年間40万キロリットルのSAFを生産可能な設備を2028年度にも設置する計画を進めています。ENEOSバイオ燃料部の古谷大介部長は、航空機の脱炭素化にとってSAFは不可欠であり、廃食油は非常に貴重な資源だと強調しています。

家庭からの回収も拡大、百貨店にも拠点設置

一方、家庭から出る廃食油の回収に力を入れているのが日本航空(JAL)です。同社は「すてる油で空を飛ぼう」と題したプロジェクトを昨年開始し、全国のスーパーマーケットなど60か所以上に回収拠点を設けています。この取り組みを通じて、月に約1500リットルの廃食油が集まっています。

日本航空が百貨店に設置した家庭用廃食油の回収ボックス日本航空が百貨店に設置した家庭用廃食油の回収ボックス

今年4月には、福岡市・天神にある大丸福岡天神店にも回収ボックスを設置しました。百貨店での設置はこれが初めての事例です。日本航空の広報担当者は、「SAFの重要性について、より多くの人に知ってもらう機会にしたい」と述べています。

SAFとは?環境負荷低減への貢献

SAFとは、「持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)」の略称です。廃食油や藻類といった植物由来のバイオマスなどを原料として製造されます。植物が生育過程で二酸化炭素(CO2)を吸収するため、化石燃料を使用する場合に比べて、CO2の排出量を実質的に最大8割削減できるとされています。

世界的に高まるSAF需要

国際航空運送協会(IATA)の予測によると、SAFの世界的な需要は今後大幅に増加する見込みです。2050年には、2025年時点の需要と比べて50倍以上に達すると予測されています。

このように、これまで廃棄物として扱われることが多かった廃食油が、地球温暖化対策に不可欠なSAFの原料として、新たな価値を持つ資源へと変貌を遂げています。日本国内でも、空港、企業、そして家庭が連携し、この貴重な資源の回収と燃料化に向けた取り組みが加速しています。