都内で過去最大規模の「ゾンビタバコ」摘発:エトミデートの危険性と社会への広がり

日本では未承認の違法薬物「エトミデート」、通称「ゾンビタバコ」の過去最大規模の摘発が東京都内で行われました。警視庁は12月10日、タイからエトミデートを密輸しようとした疑いで、東京都八王子市在住の職業不詳、間中謙二容疑者(59)を医薬品医療機器等法違反(輸入)の容疑で逮捕したと発表しました。この摘発は、若者の間で急速に広がる薬物問題の深刻さを改めて浮き彫りにしています。

間中容疑者の自宅宛てに成田空港へ到着した段ボールには、「ボディローション」と偽って「バナナオイル」とラベルが貼られたボトル4本が隠されていました。しかし、その中身は約2kgの液体状エトミデートであり、末端価格は2000万円以上と推定されています。これはこれまでの摘発例で最も多量であり、警視庁は間中容疑者が暴力団と密接な関係にあるとし、反社会的組織の資金源になっている可能性についても捜査を進めています。間中容疑者は「知人から受け取りを依頼されたが、荷物の受け取りを拒否するつもりだった」と供述しているとのことです。

タイからエトミデートを輸入しようとした疑いで逮捕された間中謙二容疑者タイからエトミデートを輸入しようとした疑いで逮捕された間中謙二容疑者

エトミデートとは? その危険性と規制の経緯

エトミデートは、海外では短時間作用型の鎮静剤や麻酔導入剤として医療現場で使用されていますが、日本では未承認の薬物です。過去に副腎機能障害を引き起こした事例があるため、その有害性が否定できないとして、厚生労働省は承認を見送っています。

過剰摂取すると意識混濁や身体・手足の痙攣を引き起こすことから、海外では「ゾンビタバコ」と呼ばれています。日本では2024年秋ごろから沖縄で「笑気麻酔」と称して蔓延し始め、その危険性が社会問題となりました。これを受け、厚生労働省は今年5月にエトミデートを「指定薬物」として規制対象とし、原則として使用、所持、輸入が禁止されています。

沖縄から全国へ:エトミデートの拡散経路と販売手口

これまでの検挙事例は沖縄に集中していましたが、エトミデートの流行は全国各地に飛び火し始めています。11月28日には都内で28歳の男性が所持容疑で逮捕されたほか、九州厚生局麻薬取締部と大分県警が8月から9月にかけて逮捕した中国籍の男3人は、インドから輸入したエトミデートを首都圏で販売していました。彼らは千葉県や埼玉県に住み、SNSで注文を受け、対面で薬物を売買していたとされています。

元麻薬取締官が見る「ゾンビタバコ」の背景

元麻薬取締官の高濱良次氏によると、エトミデートはもともと東南アジアや香港、台湾などで広まっていた薬物だといいます。国内での初期の流行が沖縄であったことについて、高濱氏は「台湾の組織とつながりがあった沖縄の反社会組織の人間が、個人的に持ち込んだのではないか」との見解を示しています。

沖縄では一部地域で喫煙に対するハードルが低いという事情もあり、若者たちの間でファッション感覚で流行が拡大しました。最近報じられた沖縄の空き家で1億円を発見した少年たちが、そのお金の使い道としてバイクやアクセサリーと並んで「ゾンビタバコ」を挙げていたことは、若者にとってのその高い「欲しいもの」としての価値を物語っています。

当初、当局はエトミデートの流行が沖縄に限定されると見ていたものの、利益を狙う者が本土へ持ち込み、買い手も現れるようになったことで、全国的な拡散が懸念されています。高濱氏は、「これまで時代ごとに新しい薬物が登場してきたが、エトミデートもこれから徐々に広まっていくのではないか」と警鐘を鳴らしています。

エトミデートのような違法薬物や麻薬、さらには市販薬のオーバードーズなど、若者を取り巻く薬物問題は深刻さを増しています。SNSを通じて容易に入手できる環境に加え、薬物にしか逃げ場がないと感じる社会的な要因も、この問題の根底にあるのかもしれません。