6月も下旬に入り、京都では多くの神社の境内に青々とした茅の輪(ちのわ)が姿を現します。日本の伝統的な年中行事の一つである「夏越の祓(なごしのはらえ)」は、一年のちょうど折り返しにあたる6月30日に行われます。この日、古くからの習わしに則りこの茅の輪をくぐることで、過ぎた半年間に知らず知らずのうちに積もった罪や穢れ(けがれ)を心身から払い清め、残り半年間を新たな気持ちで健やかに過ごせるよう祈願するのです。また、この時期には「水無月(みなづき)」という和菓子をいただき、厄除けと無病息災を願う習慣も京都を中心に根付いています。
夏越の祓とは何か? その意味と由来
夏越の祓は、文字通り「夏を越すための祓え」を意味します。旧暦では6月は梅雨の時期にあたり、疫病が流行しやすい季節の変わり目でした。現代においても、日本の夏は高温多湿であり、体調を崩しやすい時期です。そのため、年の前半の締めくくりに大祓を行い、心身を清めて後半を迎える準備をすることは、健康維持への願いが込められた理にかなった習慣と言えるでしょう。この神事は、京都だけでなく全国各地の神社で行われていますが、古都・京都では特に重要な年中行事として人々の生活に深く浸透しています。
夏越の祓の中心となるのが「茅の輪くぐり」です。これは、イネ科の植物である茅(ちがや)で作られた大きな輪をくぐることで、罪穢を祓い、疫病を避け、延命長寿を願うものです。この茅の輪くぐりの由来は、日本神話に登場する素怃嗚尊(スサノオノミコト)の逸話に遡ります。
ある時、旅の途中に一夜の宿を求めた素怃嗚尊は、裕福な弟の巨旦将来(こたんしょうらい)には冷たくあしらわれますが、貧しくとも心の優しい兄の蘇民将来(そみんしょうらい)に温かくもてなされます。そのお礼として素怃嗚尊は蘇民将来に「後世に疫病が流行した際は、『蘇民将来の子孫』と記した護符を付け、茅の輪を腰につけていれば免れるであろう」と教えを授けました。蘇民将来がその教えを守ったところ、本当に疫病から逃れることができ、子孫は繁栄したと伝えられています。この逸話から、茅の輪は厄除けや無病息災のシンボルとなり、疫病が蔓延しやすい季節に茅の輪をくぐる習慣が生まれたとされています。
京都の平安神宮応天門に設置された鮮やかな茅の輪
神社ごとの茅の輪くぐりと楽しみ方
茅の輪が設置される期間や、茅の輪のくぐり方(例えば、「水無月の夏越の祓する人は千年(ちとせ)の命延(の)ぶというなり」という和歌を唱えながら8の字を描くように3度くぐるなど)は、神社によって異なります。京都市内の各神社では、それぞれ独自の作法や雰囲気を大切にしています。
夏越の祓の時期には、京都の梅雨の風情を感じながら、市内の様々な神社を巡り、それぞれの茅の輪をくぐってみるのも良いでしょう。多くの神社では、茅の輪は6月の中旬から下旬にかけて設置され、夏越の祓が行われる6月30日までくぐることができます。一部の神社では、神事の後も数日間設置されている場合もあります。正式な日程や作法については、訪れる予定の神社の公式情報や、京都市観光協会などの案内を参照することをおすすめします。
この伝統的な神事に参加することは、日々の生活で溜まった心身の疲れや穢れをリフレッシュし、新たな気持ちで年の後半を迎えるための良い機会となります。茅の輪をくぐる際は、素怃嗚尊と蘇民将来の故事を思い起こし、無病息災への願いを込めて、丁寧に輪をくぐってみましょう。
京都では、夏越の祓に「水無月」を食べる風習も欠かせません。三角形のういろうの上に小豆が乗ったこの和菓子は、氷室の氷に見立てた三角形と、悪魔払いの意味を持つ小豆によって、暑気を払い厄を払うと信じられています。夏越の祓の日に水無月を味わうことも、古都の夏の伝統を体験する一つの方法です。
結び
夏越の祓と茅の輪くぐりは、日本に古くから伝わる重要な浄化と健康祈願の儀式です。特に京都では、四季折々の年中行事が大切にされており、夏越の祓もその一つとして多くの人々に受け継がれています。6月30日には、茅の輪をくぐり、水無月をいただくことで、心身を清め、来るべき暑い夏と残りの半年を無事に過ごせるよう願いを新たにしてみてはいかがでしょうか。