小泉進次郎農林水産大臣が就任して以来、電光石火のスピードで市場に出回るようになった政府の「備蓄米」。凶作や不作に備え貯蔵されていたこのお米が、5キログラムあたり2000円台という手頃な価格で流通し、消費者の注目を集めています。しかし、備蓄米は古米や2年前の古古米が含まれるため、その品質や味について疑問の声も上がっています。果たして消費者はこの備蓄米をどのように受け止めているのか、そしてコメの専門家はどう見ているのか、アンケート調査と専門家の意見を通じて探ります。
都内スーパーで備蓄米の流通状況を視察する小泉進次郎農林水産大臣
消費者アンケート：「備蓄米、食べる？食べない？」その理由
全国の30代から60代の男女300人を対象に実施したアンケートでは、「備蓄米を食べたいと思うか（すでに食べたか）」という問いに対し、「食べる（すでに食べた）」と答えた人が148人、「食べない」と答えた人が152人と、ほぼ同数の結果となりました。
「食べる派」からは、「テレビで見て、みんなおいしいと言っているのでどんな味か試してみたい」（愛知県・男性・61歳）や、「古古米とはお米としてどんな感じなのか興味がある」（神奈川県・女性・54歳）といった声が聞かれ、価格だけでなく味や品質への純粋な好奇心があることがうかがえます。
一方、「食べない派」の意見としては、「おいしくなさそう」（神奈川県・男性・59歳）、「高くても品質とおいしさにこだわりたい」（山形県・女性・56歳）など、価格よりも味や品質を重視する姿勢が明確に表れました。
お米マイスター西島豊造氏の見解：世代間で異なる「備蓄米」への意識
このアンケート結果について、五ツ星お米マイスターであり、（株）スズノブ代表取締役を務める米の専門家、西島豊造氏は「思っていたとおりの結果ですね」と語ります。
西島氏によると、この意識の違いは年齢によって顕著だといいます。「お年寄りになればなるほど、『備蓄米=まずい』というイメージがあり、新米こそがおいしい米だと考えがちです」。一方、若年層は「価格が高騰している『ブランド米』にこだわりがない」とし、「安ければカリフォルニア米でも買うし、コメがなかったらパンや麺類を食べるなど、コメに対する選択肢が多様です」。
さらに、若い世代は海外旅行などで粘り気の少ない米を食べる機会も多く、国産の粘りの強い米でなくても美味しく食べられる経験があることも影響していると分析。もしアンケートを若い層と高齢層に分けて集計すれば、全く異なる結果になるだろうと推測しています。この専門家の分析は、価格と品質、そして食の経験が消費者の「備蓄米」への受け止め方に複雑に絡み合っている現状を示唆しています。
今回の備蓄米の放出は、手頃な価格で米を入手できる機会を提供する一方で、消費者の間で品質や味に関するさまざまな議論を巻き起こしています。特に、長年「新米至上主義」であった高齢層と、より柔軟な食の価値観を持つ若年層との間で、備蓄米に対する意識には大きな隔たりがあることが専門家の指摘からも明らかになりました。価格の魅力だけでは払拭しきれない品質への懸念と、食文化や世代間の価値観が「備蓄米」の評価を分けていると言えるでしょう。今後、備蓄米が日本の食卓にどの程度浸透していくのか、その動向が注目されます。
