1999年11月13日に発生した名古屋主婦殺害事件は、26年という長い歳月を経てついに大きな局面を迎えました。今年10月、この未解決事件の容疑者として逮捕されたのは、被害者の夫である高羽悟さん(69)の高校の同級生で、同じソフトテニス部に所属していた安福久美子容疑者(69)です。この逮捕は、事件の背後に隠された深い情念と人間関係の複雑さを浮き彫りにしています。
喫茶店での号泣と24年間の秘めた情念
事件の遠因は、逮捕の24年も前の1975年に遡ります。愛知県豊橋市内の喫茶店で、当時私立大学生だった高羽悟さんと、浪人生だった安福久美子容疑者が向き合っていました。悟さんが「やっぱり君の気持ちには応えられない」と告げると、安福容疑者は突然、人目を憚らず号泣し始めたといいます。この出来事は、周囲からは男女間の痴話喧嘩のように見えましたが、悟さんにとっては困惑以外の何物でもありませんでした。しかし、この拒絶が、安福容疑者の心に深い情念を抱かせ、後の悲劇へと繋がる伏線となったとみられています。
1999年、主婦殺害事件の詳細と遺された証拠
1999年11月13日の昼頃、名古屋市西区のアパートで暮らしていた主婦、高羽奈美子さん(当時32)が、何者かに刺殺されるという痛ましい事件が発生しました。犯行は当時2歳だった奈美子さんの息子、航平ちゃんの目の前で行われたとされ、奈美子さんは血まみれの状態で廊下に倒れ込んでいたといいます。奈美子さんは1995年7月7日、11歳年上の悟さんと結婚し、不動産会社の同僚として知り合った二人でした。奈美子さんの妹は「家族思いの優しい方だった」と故人を偲び、嫁姑関係も良好で、義母と台所に立って料理をするなど、家族の中心で明るい存在だったと語っています。
奈美子さん、息子の航平さんと 写真は高羽悟さん提供
犯人は犯行後すぐに逃亡しましたが、奈美子さんともみ合った際に手を負傷したとみられ、玄関先には血痕と靴跡が残されていました。目撃情報もあり、DNA鑑定により犯人の血液型はB型、性別は女、年齢層は40〜50代と判明しました。これだけの有力な証拠が残されていたにもかかわらず、捜査は難航を極め、警察は奈美子さんの関係者を徹底的に調べ上げましたが、決定的な手がかりは得られませんでした。
遺族の孤独な闘いと2200万円の家賃
事件以来、夫である高羽悟さんの“孤独な闘い”が始まりました。悟さんは犯行現場となったアパートの家賃を払い続け、その総額は2200万円を超えたといいます。これは、いつか犯人が捕まる日のために現場を保存したいという、遺族の強い思いの表れでした。悟さんはまた、情報提供を求めるビラを配り続け、数々のメディアからの取材も受けながら、事件の風化を防ぐために奔走しました。26年もの間、彼は亡き妻への思いと犯人逮捕への執念を胸に、戦い続けてきたのです。
高校時代の安福久美子容疑者(卒業アルバムより)
26年後の逮捕劇
そして、事件発生から26年後の2025年10月30日、ついに事態は大きく動きます。一人の女が名古屋の西警察署に出頭したのです。その女こそ、高校時代に高羽悟さんに淡い恋心を抱き、そして深く傷ついた安福久美子容疑者でした。長きにわたる捜査の末、遺族の諦めない思いと警察の粘り強い捜査が結実した瞬間でした。悟さんは同級生の逮捕を知り「まさか、あんな大人しい子が…」と絶句したといいます。
この逮捕劇は、冷たくなったかに見えた未解決事件に光を当て、多くの人々に衝撃を与えました。事件の全容解明に向けて、今後の捜査の進展が注目されます。





