現在、日本においてADHDなどの発達障害と診断され、特別支援教育の対象となる子どもが急増しています。この背景には、単に障害への理解が進んだだけではなく、診断基準の変更や教育現場の状況が複雑に絡み合っている現状があります。特別支援教育を受ける児童生徒数の統計データも、この増加傾向を明確に示しています。本記事では、この急増の要因と教育現場における課題について掘り下げます。
発達障害の理解の変遷と診断基準の拡大
日本における発達障害への理解は、近年大きな変化を遂げています。2005年の発達障害者支援法の施行、そして2007年の学校教育法に基づく特別支援教育の本格実施がその流れを加速させました。さらに、2013年に改訂された『精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM-5)は、診断基準を拡大。これにより、注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)に該当する子ども(および大人)の範囲が広がり、結果として診断数が増加しました。「過剰診断」との指摘も一部で聞かれます。
発達障害や特別支援について考える子どものイメージ写真
通級指導を受ける児童生徒数の顕著な増加
文部科学省が公表した『令和5年度 特別支援教育体制整備状況調査結果』を見ると、特別支援教育の一つである通級による指導を受ける児童生徒数が急激に増加していることがわかります。特に、冒頭で述べた法改正や診断基準緩和の時期から、増加率が顕著になっています。例えば、2013年に約1万人だったADHDの子どもは、2022年には4倍以上の4万3000人に達しました。場面緘黙など情緒障害の子どもも、同期間に8600人から約3倍の2万4000人に増加。一方、弱視や難聴といった身体的障害のある子どもの数が2000人台で推移していることと比較すると、この伸び率がいかに大きいかが理解できます。(参照元データ:文部科学省) 註として、ここでいう「情緒障害」は教育上の区分であり、医学的診断基準とは異なります。
「発達障害ではないのに」専門家が指摘する実態
公認心理師として公立学校の事例検討会に招かれる筆者のような専門家は、教育現場において発達障害ではないにもかかわらず、誤って発達障害と見なされているケースが相当数存在することを実感しています。国による発達障害への理解推進が進む一方で、現場での誤解も生じている可能性があるのです。
教育現場で生じる「誤認」の背景にあるもの
このように、専門家の視点から見て発達障害と誤認されやすい子どもたちには、主に以下の2つのパターンが見られます。一つ目は、教員が特別支援教育への接続を強く希望する場合です。これは、特定の行動への対応に困難を感じていたり、より専門的なサポートが必要だと判断したりする心理が背景にあると考えられます。二つ目は、保護者が子どもの反抗期など、発達過程で起こりうる自然な行動変化に困惑し、外部の支援や「診断」を求める場合です。これらのパターンは、教育現場や家庭が抱える様々な課題、例えば人手不足による教員の疲弊といった状況とも無関係ではないと考えられます。
発達障害の子ども増加が示す、社会と教育の課題
発達障害と診断され、特別支援教育を受ける子どもの急増は、診断基準の変更や社会全体の理解向上といった前向きな側面がある一方で、教育現場の逼迫や保護者の悩みといった要因が誤認を生む可能性も示唆しています。この複雑な状況を正しく理解し、本当に支援が必要な子どもたちに適切なサポートが届く体制を整備していくことが、今後の社会に求められています。
参照
- 文部科学省 令和5年度 特別支援教育体制整備状況調査結果
- Yahoo!ニュース/PRESIDENT Online