イスラエルによるイランへの大規模攻撃は、当初、イランの核兵器開発阻止を目的としていたが、次第に「体制転覆」という声が出始めた。トランプ大統領も攻撃への参戦を示唆する発言をし、その後、アメリカがイランの3つの核施設を攻撃したと報じられている。事態は一体どうなるのか。中東情勢は緊迫の度合いを増している。
エスカレートする応酬と各国の思惑
イスラエルによる攻撃開始後、ネタニヤフ首相は6月15日、米FOXニュースのインタビューでイランの「体制転覆」の可能性について問われ、「イラン政権は非常に弱いので、そうなる可能性がある」と答えた。さらに、「私たちは最高指導者(ハメネイ師)が隠れている場所を正確に知っている。今は彼を排除(殺害)するつもりはないが、そろそろ我慢の限界だ」と述べ、強硬な姿勢を示した。
これに対し、トランプ大統領は17日にSNSに書き込み、「無条件降伏!」と要求。G7首脳会議を初日で切り上げてワシントンに戻った後には、「停戦よりも大きなことだ。本当の終結だ」と発言し、攻撃への関与や事態の収拾に向けた強い意志を示唆した。
一方で、ハメネイ師は18日にイランのテレビで声明を放映し、「我々は決して降伏はしない。米国が軍事介入すれば取り返しのつかない損害を負うことになる」と述べ、徹底抗戦の構えを見せた。この応酬は、事態が単なる核施設への攻撃から、より広範な政治・体制問題へとエスカレートしていることを示唆している。
イスラエルによるイラン攻撃後の国連安保理緊急会合で発言するIAEA事務局長グロッシ氏の姿が映し出された画面。米ニューヨークの国連本部にて、2025年6月13日撮影。
攻撃の規模と標的
イスラエルが13日未明に開始したイランへの攻撃は大規模なものであった。ネタニヤフ首相は攻撃初日の夕方、「今回の攻撃は歴史上、最も偉大な軍事作戦の一つ」と称賛。攻撃対象は核関連施設、軍施設など100カ所以上に及び、イラン軍参謀総長、革命防衛隊総司令官という軍のトップ2人の他、複数の軍高官や核科学者が一気に殺害された。これは、イランの軍事・核開発能力に深刻な打撃を与えることを意図した精密な攻撃であったことがうかがえる。
イスラエルの情報機関モサドは、軍と協力して数年がかりでイランの軍幹部や核科学者の情報を収集していたと、イスラエルのハアレツ紙は報じている。この報道は、今回の攻撃が突発的なものではなく、長期にわたる周到な準備に基づいていたことを示している。
攻撃計画と米国の関与
ハアレツ紙の別の記事によると、ネタニヤフ首相は2024年夏ごろには既に、イランを最終的な標的として軍とモサドに計画立案を指示していたという。イスラエル空軍と軍情報部は同年11月から作戦計画の策定を開始したとされている。
注目すべきは、この11月がトランプ氏が大統領選に勝利した月である点だ。イランへの大規模攻撃が、2025年1月のトランプ大統領就任を視野に入れて動き出した可能性が指摘されている。さらにハアレツ紙は、「6月初めには“限りなく容認に近い”合図が(米国から)示された」と報じており、米メディアAXIOSもイスラエル当局者の話として、トランプ大統領は攻撃前は反対する振りをしていたが、「我々は明らかなグリーン・ライト(承認)を得ていた」と語ったと伝えている。これらの報道は、今回のイスラエルによる攻撃の背後に、米国の少なくとも黙認、あるいは積極的な容認があった可能性を示唆している。
今後の展望
イスラエルによるイランへの攻撃、そしてその後の「体制転覆」というレトリックへの変化、さらに米国の関与を示唆する動きは、中東情勢を新たな段階へと引き上げている。核開発阻止という目標から、より広範で不安定化を招きうる「体制転覆」へと焦点が移る中、イラン側の徹底抗戦の姿勢も明らかになっている。米国がどの程度深く関与するのか、あるいは既に舞台裏でどのような役割を果たしているのかは依然不透明だが、報道からはイスラエルの行動に対する一定の「容認」があったことが示唆されている。今後、この状況が地域の安定にどのような影響を与えるのか、国際社会の懸念が高まっている。
参考文献
- 米FOXニュース
- イラン国営テレビ
- SNS (ドナルド・トランプ大統領)
- イスラエル ハアレツ紙 (Haaretz)
- 米メディア AXIOS
- AERA 2025年6月30日号