世界で深刻化する「転売ヤー」問題:スイッチ2から運転免許予約枠まで狙う実態、海外の対応と日本の遅れ

世界中で商品の買い占め・高額転売を行う「転売ヤー」が深刻な問題となっています。人気ゲーム機「ニンテンドースイッチ2」から運転免許の予約枠まで、ありとあらゆるものが標的となり、その実態は海外メディアでも報じられています。各国が罰則強化や規制導入を急ぐ中、日本ではコメなどを除けばほぼ「民間任せ」の状況です。世界で広がる転売の実態と対策について詳述します。

日本における転売対策の現状と課題

高額転売で利益を得る「転売ヤー」の横行は、私たちの生活に必要な主食であるコメさえも標的とするなど、モラルの欠如が指摘されています。近年特に注目されているのが、携帯型・据え置き型家庭用ゲーム機の「ニンテンドースイッチ2」です。製造・販売元の任天堂は、6月5日発売のスイッチ2で転売対策を実施。公式通販サイトの抽選販売では、前期型での一定時間以上のプレイ実績などを応募条件に設定しました。これは、高額転売目的の購入者を排除し、真にゲームを楽しみたいユーザーに製品が行き渡るようにするための施策です。任天堂の対策は、米IGNなど海外の有力ゲームメディアでも取り上げられ、注目を集めています。

大手家電量販店も、過去の購入金額を基準にするなど独自の条件を設けて転売対策を強化しています。ネットオークション大手のYahoo!オークション(ヤフオク)も、発売日からスイッチ2本体の出品を禁止し、違反者には出品削除やアカウント停止措置を講じています。初代スイッチ発売から8年が経過し、転売対策は確かに広がってきましたが、現状ではこれらはまだ民間レベルでの試行錯誤に留まっています。

コメに関しては政府レベルでの規制の動きが見られますが、スニーカー、コンサートチケット、トレーディングカードといった趣味嗜好品から、コロナ禍におけるマスクや消毒液などの生活必需品まで、転売のターゲットは多岐にわたります。

2025年6月4日ロンドン、ニンテンドースイッチ2購入のため店頭にできた行列の様子。2025年6月4日ロンドン、ニンテンドースイッチ2購入のため店頭にできた行列の様子。

国境を越える転売問題:米国における公共サービスの予約枠転売

このような生活必需品までをも狙う転売ヤーの存在は、日本に限りません。アメリカ、韓国、台湾など、世界各地であらゆる品々が転売の標的となっています。特にアメリカでは、大統領が懸念を示すレベルの重要な問題と捉えられています。海外の事例と対応策を知ることは、日本が今後厳罰化を含む対策を進める上での参考になるでしょう。

アメリカのフロリダ州では、行政が提供する無料の市民サービスが転売のターゲットとなりました。具体的には、運転免許センターの予約枠を大量に押さえ、それを有償で転売していたのです。ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、フロリダ州マイアミ・デイド郡の税務署は、無料の予約を買い占め、利益を得るために転売する「予約転売ヤーのネットワーク」を発見したと発表しました。調査の結果、少なくとも200件もの運転免許関連の予約が転売ヤーによって押さえられていたことが判明しています。

彼らはボットや偽アカウントを使い無料の予約枠を占有、25ドル(約3,600円)から250ドル(約3万6,000円)で転売していました。地元の自動車教習所の一部も、予約枠確保に関与していたことが調査で明らかになっています。転売によって予約枠が逼迫した結果、住民は最長で数カ月前、短くても数週間前のネット予約を余儀なくされました。また、現地で予約しようとする人々は、事務所のドアを超え建物の外まで続く長蛇の列に並ぶ必要がありました。

公共サービス転売への毅然とした対応:米国フロリダ州の動き

運転免許は、多くの人にとって仕事や日常生活に不可欠であり、その取得機会が転売対象となったことで、本来無料であるはずの予約に数万円を支払わざるを得ない状況が発生しました。郡税務署のダリエル・フェルナンデス氏は、「彼らが誰で、どのように活動しているかを把握している」「システムの悪用によって得られた予約はすべてキャンセルするよう試みている」と声明で述べ、転売業者から購入した人々にも一定の責任を求める方針を示唆しました。ただし、実際の照合作業には困難が伴う可能性もあります。

現行法では、このような予約枠の転売行為そのものに対して違法性を問うことは難しく、転売ヤーへの直接的な処罰は行われていません。この状況に対し、同郡のケビン・カブレラ委員は、運転免許などの公共サービスの予約販売を「違反1件につき500ドル(約7.2万円)の罰金が科される民事上の違反」とする条例案を提案しています。これは、公共サービスへのアクセスが金銭に左右される社会を容認しない強い姿勢を示すものです。2023年にはフロリダ州タンパでも、運転免許の予約枠をめぐり類似の転売行為が確認されており、行政がセキュリティ向上のためシステム変更を迫られる事態も発生しています。

まとめ

世界的に転売ヤーによる買い占め・高額転売問題が深刻化しており、その標的は人気商品から運転免許の予約枠のような公共サービスにまで拡大しています。日本でもニンテンドースイッチ2などの商品で転売対策が進められていますが、その多くは民間主導の取り組みに留まっているのが現状です。一方、米国フロリダ州の事例では、運転免許予約枠の転売という公共サービスへの不正アクセスに対し、条例によって罰金を科すなど、より法的・行政的な側面からの対応が進められています。海外でのこうした動きは、日本においても、特定の物品に留まらない広範な転売行為に対し、法規制を含めたより実効性のある対策の導入を検討する余地があることを示唆しています。

参考文献

  • PRESIDENT Online
  • ニューヨーク・タイムズ紙