2017年に神奈川県座間市のアパートで女子高生を含む15歳から26歳の男女9人を殺害した強盗・強制性交殺人などの罪で死刑が確定していた白石隆浩死刑囚(34)の死刑が6月27日、東京拘置所で執行された。死刑執行は2年11カ月間停止しており、今回の再開には複数の背景がある。約3年ぶりとなる死刑執行再開の背景には何があるのか。
座間9人殺害事件で死刑が執行された白石隆浩死刑囚
死刑執行停止の経緯
死刑執行は2022年7月26日、秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大元死刑囚(当時39歳)に対して執行されて以来、約2年11カ月間にわたり停止していた。この停止の大きなきっかけとなったのは、当時法務大臣だった葉梨康弘氏の不用意な発言だ。葉梨氏は「法務大臣は死刑のはんこを押したときだけ昼のトップニュースになる地味な役職だ」と述べ、その職責を軽視していると猛烈な批判を浴び、わずか3カ月で法相を辞任した。法務省自体も批判の矢面に立たされ、後任の斎藤健法相は「執行には慎重な態度で臨む必要がある」と繰り返し述べるなど、死刑執行が極めて難しい状況が続いた。
神奈川県座間市のアパート、白石隆浩死刑囚による9人殺害事件の現場
さらに、2024年12月には、長期にわたり再審請求を行っていた袴田巌さんが再審で無罪判決を勝ち取ったことも、死刑制度の運用に対する社会的な関心を高め、執行再開をさらに困難にした。法務省は執行再開に向け、今年5月30日には鈴木馨祐法相が袴田さんの姉であるひで子さんと面会し、改めて謝罪を行うことで、環境を整えたとされる。
再開を急いだ理由と相次ぐ獄中死
法務省が今回、約3年ぶりに死刑執行に踏み切った背景には、「死刑制度そのものが形骸化してしまうこと」を避けたいという強い意向がある。刑事訴訟法第475条では、死刑判決確定から6カ月以内に執行しなければならないと定められているが、実際にはこの原則はほとんど守られていないのが現状だ。
さらに深刻な問題として、死刑執行が停止していたこの約3年の間に、東京拘置所など各地の収容施設で、執行されないまま病気などで獄中死する確定死刑囚が相次いでいることが挙げられる。
以下は、この間に亡くなったと報じられた確定死刑囚の一部とその概要である。
- 上田美由紀死刑囚(当時49) 事件名:鳥取連続不審死事件 死亡日:2023年1月14日 死刑確定日:2017年8月23日 死因:食事中に餅を詰まらせた事故
- 岩間俊彦死刑囚(当時49) 事件名:マニラ保険金殺人事件 死亡日:2023年8月24日 死刑確定日:2023年6月21日 死因:慢性腎不全
- 守田克実死刑囚(当時73) 事件名:マブチモーター社長宅殺人放火事件 死亡日:2024年9月9日 死刑確定日: 2011年11月22日 死因: 大腸がんと肝がん
- 窪田勇次死刑囚(当時78) 事件名:北海道資産家夫婦殺人事件 死亡日:2023年9月23日 死刑確定日:2009年12月4日 死因:誤嚥性肺炎による呼吸不全
- 筧千佐子死刑囚(当時78) 事件名:青酸カリ連続死事件 死亡日:2024年12月26日 死刑確定日:2021年7月17日 死因:呼吸不全
- 北村実雄死刑囚(当時81) 事件名:大牟田4人殺害事件 死亡日:2025年3月6日 死刑確定日:2011年10月17日 死因:肺炎
法務省の発表によれば、白石死刑囚の執行により、現在収容されている確定死刑囚は105人となった。これは、加藤智大元死刑囚の執行直後に発表された106人からわずか1人減少したに過ぎず、この間も新たに死刑判決が確定し、死刑囚の数は高止まりしている状況が続いていることを示している。
白石死刑囚への死刑執行は、約3年の停止に終止符を打った。しかし、多くの確定死刑囚が収容され続ける現状は、日本の死刑制度の課題を浮き彫りにしている。