長野県内でクマによる人身被害が相次ぎ、住民や入山者に緊張が走っている。特に最近、痛ましい死亡事故も発生しており、地域社会全体でクマ対策への関心が高まっている。本稿では、直近の被害事例と、それを受けて行われている当局による現場点検や安全対策の呼びかけについて詳細を報告する。この問題は、日本の地方における人と野生動物との軋轢という、現代社会が直面する課題の一側面を浮き彫りにしている。
長野県内で相次ぐクマ被害のイメージ画像
上松町で森林組合職員が負傷
最近発生した被害の一つは、6月26日午前10時過ぎに上松町小川の山林内で起きた。木曽南部森林組合の職員2人(32歳と64歳)が、カラマツの植林地にシカなどの食害を防ぐ薬剤を散布し、車に戻ろうとしていた際にクマに遭遇し襲われた。32歳の職員は頭や顔をひっかかれ、64歳の職員は右足をかまれた。両名とも病院へ搬送されたが、幸い軽傷とみられている。
現場に居合わせた別の職員は、当時の緊迫した状況を語った。「(自分たちが)歩いている目の前10mくらい上をクマが通過しているのが見えて、1人が追い払おうと声をあげたところ、Uターンして戻ってきて襲われた。真正面ですごい勢いで向かってきた」とその職員は述べた。襲ってきたクマは体長1.3から1.5メートルほどの成獣だったといい、「最初(クマは)30代の方に行って、それを追い払おうと60代の方がしたんですけど、その時に抱き着くような感じでクマが。(被害を)目の当たりにして自然は怖いなと思った」と、その衝撃を振り返った。
大町市では死者も発生
一方、これより数日前、大町市八坂地区の山林ではさらに深刻な被害が発生している。6月22日、タケノコ採りをしていた男性2人がクマに襲われ、46歳の男性が顔面をかまれるなどして死亡した。同行していた70歳の男性も腕をかまれ、軽傷を負ったとみられる。この痛ましい人身被害を受け、市や猟友会が付近におりを設置するなどの対応をとっているが、現在のところクマの発見や捕獲には至っていない状況だ。
被害現場での点検と専門家の見解
大町市で死亡事故が起きた現場では、被害防止に繋げるための集中点検が6月26日に行われた。市の職員や県のクマ対策員など13人が現地を歩き、クマの行動を分析。クマのエサとなるタケノコなどの植生状況や、クマが身を隠しやすい地形などを入念に調べていた。県のクマ対策員は、「ハチクとか食べられるものもあるし、平らな場所もあったりして、人に見つからないという意味ではクマにとっては安心していられる場所。クマがいた気配があるか、まず確認したいと思う」と述べ、現場がクマにとって生息しやすい環境であった可能性を示唆した。
大町市でのクマ被害現場点検の様子。関係者が地形や植生を確認している。
高まる目撃情報と呼びかけられる対策
長野県内ではクマの目撃情報が増加しており、今回被害のあった上松町を含む木曽地域や大町市を含む北アルプス地域など、4つの地域で県が「出没注意報」を発令し、警戒を呼びかけている。県はクマを人里に近づけないための環境整備や、山に入る際の具体的な備えを改めて強調している。
長野県北アルプス地域振興局林務課の担当者は、「やぶとか50cmあれば(クマが)隠れてしまうと聞いたので、見える環境にする。生ごみを捨てないとか、クマが来やすい環境をつくらないことを改めて普及しないといけない」と、身近な場所での対策の重要性を指摘。さらに、「鈴を持つとかラジオを鳴らすとか当たり前に、1人で行くことは危険なので複数人で山に入っていただければ」と、山に入る際の基本的な安全対策の徹底を強く呼びかけた。クマとの遭遇リスクを減らし、尊い命を守るためには、一人ひとりが意識を持って行動することが不可欠である。